QALY(質調整生存年:Quality-Adjusted Life Year)とは
QALYの定義
医療技術の進歩に伴い、「その治療は費用に見合った価値を提供しているか」という視点が、医療政策や技術評価においてますます重要となっています。こうした医療の費用対効果(Cost-Effectiveness)を定量的に評価するために、世界的に広く用いられている指標が、質調整生存年(QALY:Quality-Adjusted Life Year)です。従来の医療評価では、患者がどれだけ長く生きられるかという「生存期間」に着目し、死亡率(mortality)の改善、すなわち「生命予後」の延長が主な評価の対象となってきました。しかし、近年では慢性疾患や希少疾患、がん治療後などにおいて、QOLが重要な評価項目となり、生存期間だけでは医療の価値を十分に評価できないケースが増えています。そのため、「生存期間」だけでなくmorbidityの改善、すなわち「生存中の健康状態」も考慮し、生存年数という“量”と生活の質という“質”の両面から統合的に捉える必要性が高まりました。この背景から登場したのがQALYです。具体的には、生存年数をQOLで調整することで、単なる生存期間だけでなく、その中身の質も反映したアウトカム指標として用いられるようになりました。現在では医療・公衆衛生分野における医療技術評価や政策判断の基盤として、広く活用されています1「薬剤経済」わかりません!!、五十嵐 中・佐條 麻里、東京図書株式会社、2014。

QALYの求め方
QALYを算出するためには、「生存年数(LY)をQOLで調整する」という考え方を数値的に実現する必要があります。そのため、QOLを0〜1の尺度で数値化することが求められます。そこで、1を「完全に健康な状態」、0を「死亡」と定義することで、生存年数と生活の質を掛け合わせて評価することが可能になります。
効用値は時間とともに変化することがあるため、実際の評価では各時点の効用値を用いて積分的に計算することもあります。効用値は、QOLを0〜1の数値で定量化したものであり、QALYの“質”の側面を担う重要な要素です。QALYの算出方法は以下の通りです。
QALY =健康状態の効用値 × 生存年数
たとえば、慢性的な痛みを伴う状態では、効用値は0.6や0.7など、完全健康(1.0)よりも低く設定されます。ある治療によって1年間の延命効果があり、その期間を完全に健康な状態で過ごせるとすれば、1.0 × 1年 = 1.0 QALYとなります。一方、健康状態がやや不良で効用値が0.6と評価される場合、そのQALYは0.6 × 1年 = 0.6 QALYとなります。さらに、複数年にわたる治療効果を評価する場合には、年ごとに効用値を用いてQALYを算出し、それらを合計して総QALYを求めます。このように、QALYを用いることで、単なる延命効果だけでなく、「その期間をどれだけ良好な健康状態で過ごせたか」という質の側面も考慮したうえで、医療の価値を定量的に比較・評価することが可能になります。
効用値の求め方
QALYを算出するためには、QOLを数値化した効用値を求める必要があります。その、効用値を測定するための代表的な尺度としては、EuroQol 5-Dimension 5-Level (EQ-5D-5L)やShort Form-36 Health Survey (SF-36)が広く用いられています。なかでもEQ-5D-5Lは、簡便かつ標準化された患者回答式の尺度であり、医療技術評価(HTA: Health Technology Assessment)において最も一般的に使用される測定法の一つです。本尺度では、「運動能力」「身の回りの管理」「日常活動」「痛み・不快感」「不安・抑うつ」の5つの領域から健康状態を評価し、その回答結果をスコア換算表(value set)に基づいて0~1の範囲の効用値に変換します。これら5つの領域は、文献調査や患者・一般住民を対象とした調査により、QOLを評価する上で共通して重要とされる主要な構成要素であることが確認されています2Janssen, B. et al. Measurement properties of the EQ-5D-5L compared to the EQ-5D-3L across eight patient groups: a multi-country study. Quality of Life Research. 2013. 22(7), 1717–1727.。日本国内でも、国民の価値観を反映した日本版value setが整備されており、国内の医療経済評価でも広く活用されています。
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