電子カルテデータの疾患分析における特異点
電子カルテデータベースでは、単なる傷病名コードだけでなく、SS-MIX標準項目以外では医師のカルテ記載(自由記載なテキスト情報)、画像診断レポートなど、病態をより正確に把握できる情報が含まれています。これにより、レセプトデータのような請求上の制約から生じる診断名の曖昧さや、主傷病フラグの不一致といった問題を回避し、研究対象となる疾患の患者群をより厳密に定義することが可能です。また、疑い診断から確定診断に至るまでのプロセスや、症状の変化を時系列で追跡することも可能になります。
また、SS-MIX標準項目でも併存疾患や血液検査値による顕在的、潜在的な疾患管理の必要性について把握することができます。
例えば、図1は蓄積された電子カルテデータをもちいて、脂質異常症患者のLDL-C値やnon HDL-C値の管理目標達成率について、動脈硬化性疾患予防ガイドラインで示されている重症度別や保有合併症別に臨床実態を見たものになります。1寺本民生ら、動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 年版における スタチンによるコレステロール管理の疫学研究、薬理と治療、2013、41(5)、415-429
冠動脈疾患に罹患した二次予防群は達成率が低く、コントロール不良であることがわかります。また、一次予防カテゴリーⅢ群の合併疾患別では、慢性腎臓病(CKD)群においてコントロール不良であることも見ることができます。このように電子カルテデータの特異点として、電子カルテに登録された病名、保有合併症や血液検査値をもちいて、疾患の臨床実態や治療実態を把握することが出来ます。2寺本民生ら、動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 年版における スタチンによるコレステロール管理の疫学研究、薬理と治療、2013、41(5)、415-429
処方薬、処置や検査における特異点
電子カルテデータは、医薬品が処方された理由や、その効果・副作用に関する詳細な臨床経過を記録しています。これにより、レセプトデータでは判別が難しかった適応外処方についても、その目的や背景を正確に理解することができます。例えば、神経障害性疼痛の治療薬として、添付文書に記載のない傷病名で処方された場合でも、医師の記載から実際の治療目的を特定し、その有効性を評価することが可能です。3小久保欣哉,正路章子、リアルワールドデータのドラッグ・リポジショニングへの活用、月刊ファームステージ、2017、17、54-58
電子カルテデータベースには、医療機関独自のクリニカルパスや診療プロトコル、さらには患者ごとの処置や検査が実施された詳細な理由が記録されています。これにより、レセプトデータだけではわからなかった、処置や検査の背後にある医療機関の方針や、患者個別の状態を考慮した判断を分析することができます。例えば、ある検査がルーティンでおこなわれたのか、特定の症状に基づいておこなわれたのかといった違いを区別できるため、データの解釈の妥当性を高めることが可能です。4医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版(令和5年5月)、厚生労働省、https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00006.html、2025年9月10日 5SS-MIX2 標準化ストレージ 構成の説明と構築ガイドライン Ver.1.2i (2024.5.16版)、日本医療情報学会、https://www.jami.jp/jamistd/ssmix2/、2025年9月10日 6診療情報提供書 HL7FHIR 記述仕様 第 1.11 版(2025.7.14版)、日本HL7協会、日本医療情報学会、https://std.jpfhir.jp/stddoc/eReferralFHIR_v1x.pdf、2025年9月10日
電子カルテデータとレセプトデータ連携の可能性
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