糖尿病の治療におけるエビデンス
SGLT2阻害薬
ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬は、腎臓の近位尿細管に存在するSGLT2を特異的に阻害する薬剤です。この作用により、尿中へのグルコース再吸収が抑制され、過剰なグルコースが尿として体外に排出されます。この血糖降下作用は、インスリン分泌能に依存しないという点で、他の多くの糖尿病治療薬とは異なる特徴を持っています1Wheeler DC, et al : DAPA-CKD Trial Committees and Investigators. Effects of dapagliflozin on major adverse kidney and cardiovascular events in patients with diabetic and non-diabetic chronic kidney disease: a prespecified analysis from the DAPA-CKD trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2021 Jan;9(1):22-31. doi: 10.1016/S2213-8587(20)30369-7. PMID: 33338413.。また、SGLT2阻害薬は、血糖降下作用を超えた多面的な効果を有していることが大規模臨床試験(心血管アウトカム試験)により明らかとなり、以下の臓器保護作用が確認され、その位置づけが大きく変化しました。心血管イベント抑制作用として、糖尿病の有無にかかわらず、慢性心不全や心血管疾患のリスクが高い患者において、心不全による入院や心血管死のリスクを有意に低下させること、また体重減少効果があることも示されています2Packer M, et al (2020) Cardiovascular and renal outcomes with empagliflozin in heart failure. N Engl J Med 383,1413―1424.。腎保護作用としては慢性腎臓病(CKD)患者において、腎機能低下の抑制や腎疾患の進行、心血管死のリスクを低下させることが証明されています。糖尿病性腎症の有無にかかわらず、その腎保護効果は広く認められており、腎臓病の治療薬としても適用が拡大しています3https://cdn.jsn.or.jp/data/CKD_SGLT2inhibitor_recommendation_20221129_2.pdf。
GLP-1受容体作動薬
グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬も、HbA1cの低下を介した血糖コントロールだけでなく、心血管イベント抑制効果が大規模なランダム化比較試験(RCT)で示されています。GLP-1受容体作動薬は、従来の糖尿病治療薬が抱えていた低血糖リスクが低いことも特徴です。HbA1cの変動速度は数か月~2年程度で評価可能であるため、糖尿病を対象とした試験では広く使われるようになりました4Areesha Moiz,et al(2025),Mechanisms of GLP-1 receptor agonist-induced weight loss: A review of central and peripheral pathways in appetite and energy regulation. Journal of Clinical Research, 15(2), 123–145.。
GLP-1受容体作動薬は糖尿病だけでなく、適応症がある肥満症に加えて高血圧や脂質異常症などの生活習慣病にも寄与するとされています。2型糖尿病患者においては血糖コントロールに加え、適切な肥満管理も必要です。GLP-1受容体作動薬は、糖尿病治療のメカニズムとして血糖コントロールと体重減少効果を併せ持つことが報告されています。日本人の2型糖尿病患者におけるGLP-1受容体作動薬の有効性を評価したRCTを用いたネットワークメタ解析においても、注射剤・経口剤双方のGLP-1製剤が、より優れたHbA1c低下効果と体重減少効果を示したことが明らかになっています5Tsukamoto, S.,et al (2023). Effect of tirzepatide on glycemic control and weight loss compared with other glucagon-like peptide-1 receptor agonists in Japanese patients with type 2 diabetes mellitus. Diabetes, Obesity and Metabolism. https://doi.org/10.1111/dom.15312。
糖尿病を対象としたデータベース研究
既存のデータベースと糖尿病研究
これまで見てきたように、糖尿病はHbA1cや空腹時血糖値という臨床検査値によってアウトカムが定義されています。一般的にデータベース研究で広く用いられているレセプト由来のデータベースには臨床検査値が含まれていないため、糖尿病の治療効果を対象としたデータベース研究をおこなうには強い制約がありました。実際に過去に実施された糖尿病を対象におこなわれたデータベース研究は健康診断のデータベースやDPCデータベースなど、臨床検査値を含むデータベースでおこなわれています6Yasushi I., Alena S., Toshihiko A., Nobuhiro A., Takeshi I., Zhihong C.,&Hiroshi M. (2021) .Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonist Utilization in Type 2 Diabetes in Japan: A Retrospective Database Analysis (JDDM 57). Diabetes Ther 12:345–361. 7鈴木將之ら「機械学習モデルを用いたリアルワールドデータ(RWD)の解析」『薬理と治療』2019年3月。
次世代医療基盤法データと糖尿病研究
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