観察研究において注意すべきバイアス

東京医科大学医療データサイエンス分野 主任教授 田栗 正隆

臨床疫学や公衆衛生学の分野において、観察研究は現実世界での医療実態を把握するための重要な研究デザインです。しかしながら、観察研究の結果を正しく解釈するためには、データに潜むバイアス(bias)を十分に理解し、その影響を最小化する工夫が重要です。ここでのバイアスとは、研究結果における偶然の誤差ではなく、特定の方向に系統的に結果を歪めてしまう要因を指します。

本稿では、観察研究において特に注意すべき代表的なバイアスと、その対策について概説します。

1. 妥当性と誤差の基本概念

研究結果の信頼性や妥当性を論じる際、まず区別すべきは精密度(precision)と正確度(accuracy)の違いです。精密度とは偶然誤差の小ささを意味し、量的研究の結果については、対象者数を増やすことで改善可能です。

一方、正確度の低下は、系統誤差が生じていることを意味し、研究結果が特定の方向に偏ることによって生じるため、単に対象者数を増やしても解消されません。この系統誤差がバイアスと呼ばれるものです。研究の妥当性(validity)には内部妥当性(internal validity)と外部妥当性(external validity)があります。

ある曝露や介入とアウトカムとの因果関係を評価したい研究では、内部妥当性は、研究対象集団における因果関係を正確に推定できているかを問うものであり、バイアスが存在する場合はこれが損なわれます。外部妥当性は、得られた知見を他の集団に一般化できるかという一般化可能性(generalizability)または外挿可能性(transportability)を意味します。一般化可能性は関心のある標的集団に研究対象集団が含まれる場合、外挿可能性は標的集団に研究対象集団が含まれない場合に用います。内部妥当性を欠いた研究をいかに外部に一般化しても、意義のある結論を導くことができません。したがって、まずはバイアスに対処し内部妥当性の確保を最優先に考えることが重要です。