活用事例1:関節リウマチ(RA)における費用対効果分析研究
病院単位のレセプトデータを用いた事例を紹介します。本事例では商用のレセプトデータベース(DPCデータ)が用いられていました。
表題
関節リウマチ(RA)患者における生物学的製剤および合成分子標的薬(b/tsDMARD)の費用対効果分析研究:コホートシミュレーションとRWDを使用したアプローチ1Kuwana M, Tamura N, Yasuda S, Fujio K, Shoji A, Yamaguchi H, Iwasaki K, Makishima M, Kawata Y, Yamashita K, Igarashi A. Cost-effectiveness analyses of biologic and targeted synthetic disease-modifying anti-rheumatic diseases in patients with rheumatoid arthritis: Three approaches with a cohort simulation and real-world data. Mod Rheumatol. 2023;33(2):302-311.
目的
RAにおける生物学的製剤および合成分子標的薬(b/tsDMARD)の費用対効果を評価することが目的でした。
方法
コホートモデルを使用した生涯分析(研究A)と2つの短期分析(研究Bおよび研究C)の3つの分析が実施されました。
研究Aでは、b/tsDMARDによる治療の費用から得られる質調整生存年(QALY)あたりの増分費用対効果比(ICER)が評価されました。
研究Bでは、有効性の指標(ACR20、ACR50およびACR70)を達成するための1人あたりの年間コストが評価されました。
研究Cでは、先行研究で定義されたレセプトデータに基づく有効性の指標を達成するための1人あたりの年間コストが評価されました(当該指標は28-joint Disease Activity Score [DAS28] ≤ 3.2に相当)。
研究BとCでは、レセプトデータを使用して医療費が推定されました。
結果
研究Aでは、すべてのb/tsDMARDのICERはQALYあたり500万円未満でした。
研究Bでは、ACR50達成の1人あたりの年間コストは、トシリズマブ皮下注(190万円/年)とアバタセプト皮下注(230万円/年)が他剤よりも低い結果となりました。
研究Cでは、1人あたりの年間コストはトシリズマブ皮下注(130万円)とトシリズマブ静注(160万円)が他剤よりも低く、有効性はトシリズマブ静注(45.3%)とインフリキシマブ(43.0%)が他剤よりも高い結果となりました。
結論
コストがより低いb/tsDMARDの費用対効果が高いことが分かりました。
活用事例1の特徴・制約
この活用事例1では、レセプトデータを利用することで患者1人あたりに生じた医療費が求められました。一方で、レセプトデータには、ACRやDASのような臨床的な有効性に関わる指標のデータが含まれません。そのため、研究Bでは、臨床試験結果をネットワークメタアナリシスにより統合し、有効性のデータが取得されました。
また、研究Cでは、レセプトデータから判定できる各薬剤の処方期間や処方量などのデータからDAS28 ≤ 3.2に相当する代替指標を求め、有効性の指標とされました。b/tsDMARDの費用対効果を検討するにあたり、研究Bでは医療費と有効性のデータソースの統一性の観点、研究Cでは臨床的な指標の代替指標で有効性を評価している観点でそれぞれ一定の制約がありました。
- 1Kuwana M, Tamura N, Yasuda S, Fujio K, Shoji A, Yamaguchi H, Iwasaki K, Makishima M, Kawata Y, Yamashita K, Igarashi A. Cost-effectiveness analyses of biologic and targeted synthetic disease-modifying anti-rheumatic diseases in patients with rheumatoid arthritis: Three approaches with a cohort simulation and real-world data. Mod Rheumatol. 2023;33(2):302-311.