リアルワールドデータ(RWD)の活用における交絡とバイアス

バイアスの種類

  1. 情報バイアス

情報バイアスとは主に曝露やアウトカムなどの解析に用いる情報の測定の誤りに起因するバイアスです。曝露あるいはアウトカムがカテゴリー変数の場合は誤分類と呼ばれることがあり、例えばレセプトに登録された疾患情報や診療項目などの情報を用いて定義する場合に、誤分類が問題になります。研究において曝露やアウトカムの特定に使用するアルゴリズムについては、事前にその妥当性をバリデーション研究で確認することが望ましく、また誤分類が懸念されるのであれば感度解析などでアウトカム定義の条件を変更し、結果の頑健性を確認することが推奨されます1日本製薬工業協会 データサイエンス部会、観察研究における感度分析の勧め 実践編、日本製薬工業協会ホームページ、2019年、https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/sensitivity_analysis_practice.html、2025年1月21日 2医薬品規制調和国際会議 M14 ICH 調和ガイドライン、医薬品の安全性評価においてリアルワールドデータを活用する薬剤疫学調査の計画、デザイン、解析に関する一般原則、2024年、https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000275529、2025年1月27日 3Delgado-Rodriguez M, Llorca J. Bias. J Epidemiol Community Health. 2004;58(8):635-641.

  1. 選択バイアス

研究参加あり/なしの間で曝露とアウトカムの関係が異なる場合に生じるバイアスで、研究者が研究対象者を選択する方法や、研究対象候補者が研究参加を決める要因などによって、内的妥当性が崩れることで生じる結果の歪みです4疫学辞典 第5版、財団法人日本公衆衛生協会、Porta M(編) 、日本疫学会(訳)、2010年。例えば、自己選択バイアス(self selection bias)は、病院に自ら受診し診断される者と、定期的な検診によって診断される者とで、健康への関心や治療への積極性が異なりアウトカムに差が生じる、という選択バイアスの例です5薬剤疫学の基礎と実践 改定第3版、影山 茂、久保田 潔 編、ライフサイエンス出版、2021年。また、既存処方者バイアス(prevalent user bias)は、追跡開始前から既に研究対象の医薬品を使用していた人を曝露群に含めてしまうことによって引き起こされるバイアスのことです6これからの薬剤疫学 リアルワールドデータからエビデンスを創る、佐藤 俊哉、山口 拓洋、石黒 智恵子、朝倉書店、2021年 7Delgado-Rodriguez M, Llorca J. Bias. J Epidemiol Community Health. 2004;58(8):635-641. 8薬剤疫学の基礎と実践 改定第3版、影山 茂、久保田 潔 編、ライフサイエンス出版、2021年。これらへの対処のために、研究対象者の包括的な選択基準を設定する方法や、また、選択バイアスが避けられない場合、統計学的手法を用いてデータを補正することでバイアスの影響を軽減する方法などがあります。

  1. 時間に関するバイアス

ケース・コントロール研究においてケース群とコントロール群での曝露判定期間が異なることにより生じる曝露判定期間バイアス(time window bias)があります。例えば疾患発症と曝露の関係性を調べるために、発症ありのケース群と発症なしのコントロール群を比較する場合、ケース群では観察開始日から発症日までの期間で曝露の有無を調べるのに対し、コントロール群では観察期間を通して曝露の有無を調べることになり、コントロール群の方が曝露ありと特定される可能性が高まるため、誤って曝露と発症の関連を低く見積もるバイアスが生じます。対処法は、ケース群とコントロール群間での曝露判定期間を統一することです。

時間に関するバイアスとして他に、不死時間バイアス(immortal time bias)があります。例えば、追跡期間中の曝露の有無をもとにケース群とコントロール群を分類する場合、ケース群は曝露が観察されるまで生存している必要があるため、コントロール群に比べて生存率が高くなる可能性があります。対処法の一つがランドマーク分析であり、追跡開始時点から一定期間以前に曝露があった場合のみ曝露群とし、一定期間後に曝露があっても非曝露群に組み込む方法です。