リアルワールドデータ(RWD)の活用における交絡とバイアス

研究デザインと交絡・バイアス

交絡によるバイアスへの対処方法の一つとして、研究デザインにより交絡制御をおこなうことがあります。曝露群と非曝露群のうち、交絡因子が特定の値(例えば、特定の年齢層、特定の既往歴など)である集団のみを抽出し、解析の対象集団とする方法を限定と呼びます。対象者の限定は、シンプルかつ強力な交絡制御法ではありますが、限定した集団以外に研究結果を適用できないことや、解析対象人数が少なくなるといった制約があります。また、マッチングも選択肢の一つですが、マッチした集団のみを対象とすると選択バイアスが生じる可能性があるため注意が必要です1疫学辞典 第5版、財団法人日本公衆衛生協会、Porta M(編) 、日本疫学会(訳)、2010年

時間に関するバイアスのうち曝露判定期間に関するバイアスの対処法としては、疾患発症によりケースが発生する度に、コントロールを時点マッチングにより選択し、マッチされた時点から遡って曝露の有無を判断する方法があります(risk-set sampling)。適切な対照群を設定することが難しい状況で、曝露群と非曝露群を比較したい状況では自己対照研究デザインがあります。時間とともに変化しない共変量であれば影響を調整でき、未測定でも問題ないとされるため、データベース研究で検討しやすいデザインであると考えられます2これからの薬剤疫学 リアルワールドデータからエビデンスを創る、佐藤 俊哉、山口 拓洋、石黒 智恵子、朝倉書店、2021年。一方で、慢性的な曝露の評価は難しく、長期間にわたって継続的に使用される薬剤の影響を評価する際には限界があります。

データソースの特徴と交絡・バイアスへの対処

RWDを用いる場合、データソースの特徴に起因するバイアスがあります。そのため、研究目的に適したデータベースを選択し、そのデータソースの特性を十分に理解することが重要です。研究結果の一般化可能性を検討し、データベースの代表性を考慮します。例えば、日本に居住する人々全体を母集団と考えた場合、各データベースに含まれる標本がどの程度母集団を代表しているかを検証することは、データベースを用いた疫学研究や臨床研究を計画する上で非常に重要となります3岡田 啓、康永 秀生、DeSC データベースの概要と臨床疫学・薬剤疫学研究への活用、薬剤疫学、2022、27(1)、11-18。選択バイアスを最小化するにはデータベース構築プロセスを理解した上で代表性の高いデータベースを使用し、適格基準を慎重に設定する必要があります。情報バイアスを最小化するには、データベース中のデータ項目の定義を理解するとともに、多面的にデータが収集されておりバリデーションが可能なデータベースを選択することも重要です。また、主要な仮定や定義の不確実性に対する結果の頑健性を確認するためには、感度分析をおこなうことが推奨されます。

  • 1
    疫学辞典 第5版、財団法人日本公衆衛生協会、Porta M(編) 、日本疫学会(訳)、2010年
  • 2
    これからの薬剤疫学 リアルワールドデータからエビデンスを創る、佐藤 俊哉、山口 拓洋、石黒 智恵子、朝倉書店、2021年
  • 3
    岡田 啓、康永 秀生、DeSC データベースの概要と臨床疫学・薬剤疫学研究への活用、薬剤疫学、2022、27(1)、11-18