処方薬の特定における限界
日本国内で保険償還されている全ての医薬品・医療機器・器材などが、レセプトデータでは記録できるようになっています。一方で実臨床においては、添付文書上に適応症として記載されていない疾患に対しても医薬品が処方される適応外処方がおこなわれる場合があります。
例えば、神経障害性疼痛のガイドラインで第一選択薬として推奨されている医薬品のうち半数には疼痛の適応がありません1一般社団法人日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版、一般社団法人日本ペインクリニック学会、2016年、https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/kaiin_guideline06.html 、2025年8月15日。そのため、医療機関で神経障害性疼痛の治療薬としてこれらの医薬品を処方した場合、審査支払機関による差し戻しを防ぐために「てんかん」や「うつ病」といった傷病名を登録する可能性がありますが、その場合、実際にはそうした疾患での治療は必要としていないということになります。ただし、審査機関ごとに審査基準が異なる場合や、ガイドラインの発表や適応外使用の事例の蓄積により、差し戻しされることがなく認められる場合もあります。
| 薬効分類 | 医薬品 | 効能または効果 |
|---|---|---|
| Ca2+チャネルα2δリガンド | プレガバリン | 神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛 |
| ガバペンチン | 他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)に対する抗てんかん薬との併用療法 | |
| SNRI | デュロキセチン | うつ病・うつ状態、下記疾患に伴う疼痛(糖尿病性神経障害、線維筋痛症、慢性腰痛症、変形性関節症) |
| TCA | アミトリプチリン | 精神科領域におけるうつ病・うつ状態、夜尿症、末梢性神経障害性疼痛 |
| ノルトリプチリン | 精神科領域におけるうつ病およびうつ状態 | |
| イミプラミン | 精神科領域におけるうつ病・うつ状態、遺尿症(昼・夜) | |
| Ca2+:カルシウム、SNRI:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、TCA:三環系抗うつ薬 | ||
処置や検査の特定における限界
医療機関はそれぞれクリニカルパスを作成しており、独自の処方・処置・検査の方針を設けている場合があります。
例えば、特定の疾患が疑われる患者のみに検査がおこなわれると仮定してある疾患疑いの患者割合を推計する計画を立てた場合に、特定の処置を受ける患者全てに検査をおこなう方針の医療機関が混在していると結果を過大評価する恐れがあります2岩上将夫ら、「日本における傷病名を中心とするレセプト情報から得られる指標のバリデーションに関するタスクフォース」報告書、薬剤疫学、2018年、23巻2号、95~123。
レセプトデータベースの限界への対策
レセプトデータベースから得られた情報の妥当性を確保するために、バリデーション研究が推奨されています3岩上将夫ら、「日本における傷病名を中心とするレセプト情報から得られる指標のバリデーションに関するタスクフォース」報告書、薬剤疫学、2018年、23巻2号、95~123。疾患の特定における限界に対処するために、データベースから得られる情報と、より真に近いと考えられる情報、ゴールドスタンダードとを比較する研究です。例えば、疾患の特定における限界に対しては、傷病名が登録された頻度や登録された日に同時におこなわれた処置・処方などの情報を組み合わせた複数の定義のうち、最も妥当性が高い定義を確認した結果が報告されています4Kubota K, Yoshizawa M, Takahashi S, Fujimura Y, Nomura H, Kohsaka H. The validity of the claims-based definition of rheumatoid arthritis evaluated in 64 hospitals in Japan. BMC Musculoskelet Disord. 2021 Apr 22;22(1):373. doi: 10.1186/s12891-021-04259-9. PMID: 33888093; PMCID: PMC8063301.。しかし、レセプトデータは請求のために生成されるデータであるため情報量に限りがあり、より情報量の多い電子カルテデータに比べると、妥当性の改善にも限界があると考えられます。
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