医療情報データベースの標準化とガイドライン

東京大学大学院医学系研究科 特任教授 小出 大介

医療情報データベースの標準化における主な課題とアプローチ

医療情報データベースの標準化には、技術面・運用面・概念面など複数の課題が存在します。第一に、コード体系の多様性があげられます。病名にはICDコード、医薬品にはバーコードのGS1(正式にはGTIN)コード1 GTIN (Global Trade Item Number: 商品識別コード)
やHOTコードまたはYJコード2YJコード(個別医薬品コード)は個々の商品名に付与される12桁の英数字コード。HOTコードは一般社団法人医療情報標準化推進協議会が制定したYJコードを始めとする複数の医薬品コードの対応付けのためのコード。、検査にはJLAC10コード3JLAC10 (Japan Laboratory Analysis Code 10th edition)コードは、日本臨床検査医学会が制定した、日本独自の標準的な臨床検査項目分類コード。など様々な標準があります。データベースを構築するにあたり、これらをどのレベルでマッピングし、どの標準を基軸とするかは、利用目的によって慎重に検討する必要があります。さらに情報源となる医療機関のデータがそもそもこれら標準的なコードに対応しておらず、施設ごとのローカルコードを使っていることも多いです。敢えてわざわざ労力をかけて標準コードに置き換えるということがなされてこなかったためです。

そして第二に、データの意味の違いという問題があります。同じ「糖尿病」という診断名であっても、I型かII型か、疑い病名なのか確定診断なのか、あるいは既往歴としての記載なのかによって臨床的な意味合いは大きく異なってきます。特にレセプトデータベースなどでは保険を通すために付けられた病名、いわゆる「保険病名」が存在するため、病名が正しいか否かを確認することも必要になることがあります。

第三にデータの構造上や運用上の標準を取り決めてそれに合わせる難しさです。SOP(Standard Operating Procedure)すなわち標準業務手順書という言葉をよく聞く人も多いと思いますが、医療情報データベースの活用においてもデータ構造なり、運用における標準化なりが重要です。

このような課題に対する1つめのアプローチとしては、既にデータの標準化や品質管理がある程度なされていることが確認できているMID-NET4独立行政法人医薬品医療機器総合機構、MID-NET(医療情報データベース)、独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ、2024年、https://www.pmda.go.jp/safety/mid-net/0001.html、2025年1月15日やDPC(Diagnosis Procedure Combination)のような医療情報データベースを用いることです。ただしMID-NETやDPCは、主に急性期の病院が対象となっており、しかも病院を超えて患者を追跡できないという限界があります。従って1回の入院ないしは繰り返し同じ病院に入院するようなアウトカムを把握する場合に向いています。

2つめのアプローチはコモンデータモデル(Common Data Model: CDM)の利用があげられます。CDMは、異なる医療情報データベースを共通の構造と用語体系に変換する枠組みで、代表例としてOMOP CDM5OHDSI、Standardized Data: The OMOP (Observational Medical Outcomes Partnership)Common Data Model、OHDSI ホームページ、2025年、https://www.ohdsi.org/data-standardization/、2025年1月15日が国際的に広く利用されています。CDMを用いることで、同一の解析プログラムを複数データベースに適用でき、結果の比較可能性や再現性が向上することになります。ただしOMOP CDMは海外で主に開発されていることから、海外で利用する病名のSNOMED6Systematized Nomenclature of Medicineや検査のLOINC7Logical Observation Identifiers Names and Codesなどがコードとして採用されてしており、日本対応を検討する必要があります。

3つめのアプローチは、構造や運用に関する標準化をおこなうことです。医療情報のメッセージングの標準にはHealth Level Seven (HL7)や、臨床試験分野で有名なCDISC (Clinical Data Interchange Standards Consortium)標準などがあり、これらの分野においてもRWDの活用のための様々な標準がHL7 Vulcanといった特別な活動グループにおいて提案されており、それらを活用することも一案と思われます。

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     GTIN (Global Trade Item Number: 商品識別コード)
  • 2
    YJコード(個別医薬品コード)は個々の商品名に付与される12桁の英数字コード。HOTコードは一般社団法人医療情報標準化推進協議会が制定したYJコードを始めとする複数の医薬品コードの対応付けのためのコード。
  • 3
    JLAC10 (Japan Laboratory Analysis Code 10th edition)コードは、日本臨床検査医学会が制定した、日本独自の標準的な臨床検査項目分類コード。
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    独立行政法人医薬品医療機器総合機構、MID-NET(医療情報データベース)、独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ、2024年、https://www.pmda.go.jp/safety/mid-net/0001.html、2025年1月15日
  • 5
    OHDSI、Standardized Data: The OMOP (Observational Medical Outcomes Partnership)Common Data Model、OHDSI ホームページ、2025年、https://www.ohdsi.org/data-standardization/、2025年1月15日
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    Systematized Nomenclature of Medicine
  • 7
    Logical Observation Identifiers Names and Codes