パブリッシングまでのプロセス

学会発表・論文発表を行うには

創出したエビデンスを医師などの医療従事者に向けて適切に発信・提供し、認識・活用してもらうために、学会発表や論文発表が有効であることは「パブリッシングの目的と概要 」の項で取り上げました。ここでは、具体的にどのようなプロセスで学会発表・論文発表を行うかについて解説します。

学会発表・論文発表までのプロセス

学会発表・論文発表までのプロセスは、具体的には「研究コンセプト立案」、「研究計画策定」、「倫理審査委員会での承認」、「解析計画書の作成」、「研究の実施」、「研究結果の解釈・考察」ののち、学会発表の場合は「抄録作成・演題登録」、論文発表の場合は「論文作成・論文投稿」、「査読対応」となります。各プロセスにおいてステークホルダーと合意を取りながら進めることが重要です。

研究コンセプト立案では、まずリサーチクエスチョンを設定します。続いて、リサーチクエスチョンに適したデータソースを選択するとともに、前向き研究・後ろ向き研究といった研究デザインの検討を行います。研究デザインの検討にあたっては、必要サンプルサイズ、バイアスコントロールなどについて統計専門家と連携することが求められます。場合により、事前調査や事前解析を行うことで実現可能性を確認することを検討します。また、研究のアドバイザー、学会発表の発表者、論文の著者となる専門家(医師など)を選定し研究参画の了承を得ることもこのプロセスで行います。

研究計画の策定では、研究コンセプトを具体的なアウトカムに落とし込んでいきます。科学的な観点に加えて患者さんの同意や、個人情報の取り扱いなど倫理指針を含む各種規定を遵守した計画を作成しなければなりません。とくに、小児や認知機能に障害がある患者さんを対象とする場合は慎重な検討が必要です。

解析計画書の作成では、研究計画書に基づき、図表のモックアップを含んだ具体的な解析手法を記載します。原則として研究開始前に初版を固定し、研究開始後の変更は更新履歴を管理することで、恣意的な解析を避けることが重要です。

研究の実施、結果の解釈・考察では、研究計画書・解析計画書に基づいて、データベース解析やアンケート調査とその解析を行い、その解析結果について妥当な解釈や考察を行います。得られた結果と考察の内容から、最終的な発表先を決定します。 学会発表のためには、研究成果について抄録を作成し学会の規定に従い演題登録を行います。学会によっては、演題登録にあたって筆頭演者や共同発表者の学会への会員登録が必須とされる場合もあります。

研究成果を論文として発表するためには、投稿先とする雑誌の投稿規定に従って研究成果を論文化して投稿します。雑誌には複数の記事タイプが用意されていることがほとんどですので、研究の内容に適したタイプを選択します。論文は記事タイプによりますが多くの場合研究の「背景」、「材料と方法」、「結果」、「考察」、「結論」、「参考文献」からなる本文と、本文の内容を補強する図表で構成されます。雑誌によってはSTROBE、CONSORTなど、研究タイプに応じたガイドラインに準拠したチェックリストの提出を求められる場合があります。チェックリストの提出が必須とされていない場合であっても、質の良い論文を作成するためにチェックリストを活用することは有効です。論文を海外雑誌に投稿する場合には、論文として適切な英文であることが求められますので英文校正を外部に委託することを考慮します。投稿した論文は査読により「採択」、「修正の上採択」、「却下」の評価がされます。「修正の上採択」であった場合には、査読者のコメントを受けての修正や追加解析を行い再投稿することになりますが、「却下」された場合は別の投稿先への投稿も検討します。