製薬企業と医学教育助成

製薬企業による資金提供と医療への貢献

製薬企業の使命は、優れた医薬品を継続的に開発し、安定的に供給することを通じて、世界の人々の福祉と医療の向上に貢献し、健康で質の高い生活の実現に寄与することにあります。この使命を果たす中で、製薬企業は医療従事者や研究者に対する研究活動や教育機会の支援を通じて、社会全体の医療の質を向上させるという役割も担っています。製薬企業による支援の一環として、学術研究の振興及び研究助成を目的として大学をはじめとする研究機関に対して教育や研究を支援する目的で提供される「奨学寄附金」があります。奨学寄附金は、各施設の会計規定などに基づいて受け入れられ、その使途は具体的な学術研究目的に指定されています。

一方で製薬企業と大学及び医療機関との適切な協働のためには,透明性の確保と情報公開による社会からの信頼・信用を得ることが重要であり、2011年3月に日本製薬工業協会(製薬協)により「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」1日本製薬工業協会、企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン、日本製薬工業協会ホームページ、https://www.jpma.or.jp/basis/tomeisei/index.html、2024年11月28日が発行され、2012年度分より加盟企業は学会、大学、医療機関及び医師個人などに対する資金提供の件数や金額を公表することとなりました。また2018年4月に臨床研究法が施行されたことを受け、製薬協は「製薬企業による臨床研究支援の在り方に関する基本的考え方」2日本製薬工業協会、製薬企業による臨床研究支援の在り方に関する基本的考え方、日本製薬工業協会ホームページ、2018年、https://www.jpma.or.jp/basis/clinical_research/lofurc0000001xiq-att/update.pdf、2024年11月28日を更新し、加盟各社は自社製品に関する臨床研究に対する資金提供や物品供与などの支援は契約にもとづき実施すること、臨床研究における客観性と信頼性を確保するべく、研究者の独立性を真に保ち、利益相反(COI :conflict of interest)に十分注意を払いながら支援をおこなうことが求められています。併せて奨学寄附金提供にあたっては社内の営業部門から独立した組織においてCOIを十分に確認の上、実施することが示されました。

医学教育助成とは

奨学寄附金の課題として、資金提供を受けて施設が実施した活動の十分な成果報告が得られず、また契約の締結も必要としないため使途不明金が出るおそれがあり、支援の透明性及び真の意味で医療の質向上に貢献したかの担保が取りづらいことが挙げられます。前述のように製薬業界におけるCOIの意識の高まりもあり、外資系企業をはじめ奨学寄附金の提供を廃止している製薬企業が現れ始めているのが現状です。

製薬企業が高い透明性・公平性をもって医療に貢献する手段として、奨学寄附金からシフトする形で近年、各製薬企業により医学教育助成の実施が増加しています。医学教育助成とは医学関連学会などの専門家団体が独立して企画・運営する医学教育活動へ支援することにより、主に医療従事者の教育機会を創出し、日本における医療の質の向上に貢献することを目的とするもので、資金提供をおこなう製薬企業はその実施内容及び成果に関与せず、専門家団体が完全に独立して活動をおこなうことからIndependent Medical Education(IME)と表現されることもあります。IMEの仕組みは欧米では広く浸透している一方、日本においては高い認知度があるとはいえませんが、近年は認知度が高まってきています。

医学教育助成は、製薬業界の各種規制の遵守や中立性の担保、高い科学的知識から医療分野における教育ニーズを正しく理解できるメディカルアフェアーズ(MA)部門が予算を含め管理・運営することが望ましく、医療従事者への教育に関わるMA部門にとって関係性の深い活動といえます。例として学会の要職に就くKOLは学会活動面における資金調達が責務に含まれており、製薬企業が医学教育助成を実施しているか否かを質問することもあります。そのため医学教育助成の大まかな仕組みや、自社の当該年度の内容を把握しておくことは日々のMA活動の一助となるでしょう。