Insightに関する考え方②

Insightを議論するためにどのような事実を収集するべきかについては、当該疾患領域における情報の蓄積度が低い順に、典型的な例としては①当該疾患・当該製剤を使用している患者さんの実態を明らかにする、②当該疾患の疾病負荷を明らかにする、③当該疾患における治療の選好を明らかにする、が考えられます。

実態を明らかにする

当該疾患領域におけるエビデンスの集積が十分でない領域では、患者さんの実態を明らかにすることがまず求められます。匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)1匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)は、平成20年4月から施行されている「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、全レセプトの90%以上を格納しているデータベースです。汎用性の高い基礎的な集計表はNDBオープンデータとして公開されています。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/reseputo/index.htmlを始めとする各種データベースが整備されたことから、有病率などの疫学情報を推定できるようになりました。希少疾患では疫学情報は特定のレジストリに依存しているケースもありましたが、より一般性のある情報を得られるようになってきています。

製品が上市された直後など実臨床での情報が十分でない場合、製品の使用実態を明らかにする必要があります。治験では製品の有効性を検証するために対象集団や検査・治療がプロトコルにより厳格にコントロールされていますが、実臨床ではより多様でありえるためです。KOLが想定する処方対象となる患者像に加えて、臨床実感としての服薬アドヒアランス、治療効果などを収集する過程で、特に有効なサブグループあるいは治療抵抗性のサブグループへの示唆を得られることもありえます。

「患者中心の医療(Patient-centered Medicine)」の考え方に基づき患者さんの体験を明らかにするため、受診から確定診断を経て治療に至る一連の流れと付随するすべての検査などを可視化するペイシェントジャーニー2Bolz-Johnson M, Meek J, Hoogerbrugge N. “Patient Journeys”:improving care by patient involvement. Eur J Hum Gene. 2020;28:141-143.を作成することもあります。ペイシェントジャーニーは医療従事者や患者さんへ直接聴取することができますが、リアルワールドデータを用いて作成することもできます。

疾病負荷を明らかにする

対象疾患における治療のエビデンスがあるにもかかわらず、患者さんや医療従事者への認知度が十分でない場合、治療の必要性が認識されないことがあります。このような場合に未診断、未治療の患者さんを治療に繋げる疾患啓発の一環として疾病負荷(Disease Burden)を明らかにする活動が行われることがあります。疾病負荷とは、ある疾患によってもたらされる影響を疾患横断的に比較できるように定量化した指標を指します。疾病負荷の指標としては生活の質(QOL)と経済的損失が主に用いられます。

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    匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)は、平成20年4月から施行されている「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、全レセプトの90%以上を格納しているデータベースです。汎用性の高い基礎的な集計表はNDBオープンデータとして公開されています。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/reseputo/index.html
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    Bolz-Johnson M, Meek J, Hoogerbrugge N. “Patient Journeys”:improving care by patient involvement. Eur J Hum Gene. 2020;28:141-143.