観察研究のデザイン概論②

東京大学大学院情報学環 准教授 篠崎 智大

ケースコントロール研究

ケースコントロール研究を理解するポイントは、源泉集団(source population)、すなわちケース(アウトカム発症例)が発生してくる元集団を適切に特定または想定できるか、という点です。源泉集団が明確なら、ケースと比較するコントロールをそこから選んでくればケースコントロール研究は成功です。

しかし、ケースコントロール研究は源泉集団が明確に特定できない(あるいは実際に存在しない)状況で行われることがあります。これが「後ろ向き」ケースコントロール研究としてイメージされることが多い形態かもしれません。この場合、コントロールはアウトカム非発症例から選ばれることが一般的ですが、どこからどう選んでくるかが非常にむずかしいのです。源泉集団を意識せず、安易にアウトカム発症例とアウトカム非発症例を別々に用意してしまうと、例えば関連の指標としてオッズ比(odds ratio)を計算したとしても、どのようなコホート研究の効果指標としても解釈できなくなります。

源泉集団となるコホートが存在し、その中からアウトカム発症有無により異なる確率で対象者をサンプリングして、曝露(および交絡変数)を測定するデザインもあります。代表例として、ネステッド・ケースコントロール研究(nested case-control study)、ケースコホート研究(case-cohort study)、累積ケースコントロール研究(cumulative case-control study)が挙げられます。これらの違いは、「コントロール」をコホート内のどの集団からどのような確率で選んでくるかですが、サンプリング後の集団でオッズ比を計算することで、その背後のコホート研究で得られるはずの発症率比(incidence rate ratio)、リスク比(risk ratio)、オッズ比をそれぞれ再現することができます。こうしたケースコントロール研究は、「前向き」ケースコントロール研究と表現されることもあります1これらはデータベース研究を基に行われることもあります。もしデータベース研究を「後ろ向き」コホート研究と括ってしまうと、その中で行われた(例えば)ネステッド・ケースコントロール研究は「前向き」なのでしょうか? 対象者のサンプリングによって「後ろ向き」が「前向き」に変わるようなこうした「とんち」表現はナンセンスであり、やはり「前向き」かどうかは、この文脈でもこだわらない方がよいでしょう。。これらのデザインにおけるコントロールの選び方は次回、単純な例で見てみたいと思います。

ケースオンリー研究(case-only study)もケースコントロール研究の一つです。データベースなど現実に存在する源泉集団から、ケース(アウトカム発症例)のみを抜き出し、ケースの中で個人内に「コントロール」を設定することで効果を推定します。ただし、源泉集団はたしかに存在するものの、アウトカム非発症例を全く使わないので、源泉集団での効果は無条件では求まりません。この意味では、上の「後ろ向き」と「前向き」のケースコントロール研究の中間のような位置づけと言えるかもしれません。だからと言って中途半端なデザインというわけではなく、仮定するモデル(例えば、治療効果が時点や対象者背景を通じて一定であるなど)が成立すれば、個人内で変化しない交絡要因が自動的に調整される、といった利点があります。一方で、曝露やアウトカムが短期的・間欠的に変化すること、長期効果を持たないことなど、必要な仮定とのトレードオフがあるため、どんなデータやリサーチクエスチョンに対しても使えるわけではありません2佐藤俊哉, 山口拓洋, 石黒智恵子, 編. これからの薬剤疫学:リアルワールドデータからエビデンスを創る. 東京:朝倉書店;2021.

以上より、ケースコントロール研究というデザイン自体が介入研究・コホート研究の「廉価版」として信頼性が低いわけではなく、源泉集団があれば/明確に想定できれば、コホート研究に匹敵するエビデンスを引き出せるデザインなのです。一方で、源泉集団を明確にせず、費用面・時間面で安易に実施されやすいことも事実で、そのような研究からは価値のある因果推論ができるわけではありません。ただ、このような瑕疵はケースコントロール研究というデザインによるものではなく、それを応用する人間の認知バイアスに由来するものだと整理したほうがフェアだと思われます。

断面研究

断面研究は通常は1時点で測定されるため、因果推論に必須となるアウトカムの追跡がないと考えられがちです。しかし、1時点の調査において過去の曝露と現在のアウトカムを尋ねる設計であれば、場合によっては「追跡情報を比較した研究」とみなせることもあります。ただしこの場合も、「後ろ向き」のケースコントロール研究と同様に、思い出しバイアス(recall bias)など、アウトカムの有無によって曝露を正しく測定(分類)できない確率が異なる差異的(differential)な誤分類の影響を受けやすい点に注意が必要です。

まとめ

研究デザインは、介入の有無や、前向き・後ろ向きといった形式的な違いによって整理されることが多い一方で、これらの形式上の区別が本質的でない場合も少なくありません。因果推論を目的とした研究を理解する上では、「介入研究を模倣(emulate)」する観察研究デザインとしてコホート研究を捉え、コホート研究を効率的に実施するためのサンプリングデザインとしてケースコントロール研究を捉える、という見方が重要です。