観察研究でランダム化試験を模倣するということ①

東京大学大学院情報学環 准教授 篠崎 智大

ステップ1:「標的試験」を計画する

TTEはその名の通り①標的試験(target trial)の設定と②その試験の観察研究データによる模倣あるいは疑似再現(trial emulation)の2段階からなります。知りたい治療効果を検証できるような「仮想的なランダム化試験」が標的試験です。ただし、計画はしますが実際にやるわけではありません(もし実施できれば理想的ですが)。先に観察研究データの解析方法を考えるのでなく、「どのような試験ならこの問いに答えられるのか」から考えます。

標的試験の「プロトコル」として、臨床試験の計画書を簡略化したような次の7項目1深澤 俊貴、篠崎 智大、標的試験エミュレーション:観察研究における因果推論を強化するためのフレームワーク、2025、薬剤疫学、30巻2号、p. 53-73には、標的試験エミュレーションの概念的基盤の整理とともに、実装において考慮すべき事項が全般的にまとめられています。(または「識別仮定」を加えた8項目2The TARGET (TrAnsparent ReportinG of studies Emulating a Target trial) Guideline、The TARGET Guidelineホームページ、https://target-guideline.org/、2026年3月25日)を明示することが推奨されています。すなわち、(1) 適格基準、(2) 治療戦略、(3) 割り付け、(4) 追跡と追跡開始時点(time 0)、(5) アウトカム、(6) 対比、(7) 解析方法です。ここでいう治療戦略は、単なる「投与あり/なし」ではなく、「入院後3日以内に治療開始して、その後は副作用が出るまで継続」のような、時間を含んだ適応的な治療方針(ルール)3深澤 俊貴、篠崎 智大、標的試験エミュレーションによる不死時間への対処:逐次試験エミュレーションとClone-Censor-Weight法、薬剤疫学、2026、早期公開には、「time 0」を基準とした時点同期の必要性と、「逐次試験アプローチ」「3ステップ法」を中心とした実装手順の詳細な説明、薬剤疫学での既存デザインとの対比があります。であっても構いません。逆にいうと、「観察データに含まれる変数を使ってグループに分けて比較してみる」という発想からは対応する標的試験が想定できるとは限りません。

実務では、まず使えるデータベースがあって、その後でリサーチクエスチョンを考えることも少なくありません。しかしTTEの枠組みでは、先に臨床的に意味のある問いを標的試験として表します。その上で、その問いに含まれる適格基準やアウトカム定義に関する変数、治療戦略を形作る曝露・治療のタイミングを含む情報、その層内では治療戦略がランダム割り付けされていると見なせるような交絡変数がどこまで得られているのかを確認し、これらがデータとして得られていないようであれば標的試験の計画を修正します。この反復が解析デザインを形作っていきます。
このように設定される標的試験は観察されているデータの制約を受けますが、そのこと自体がこの枠組みの弱点ではありません。むしろ「観察されているデータから何が分かり、何が分からないか」を浮かび上がらせる特長と言えるでしょう。繰り返しになりますが、標的試験もそのエミュレートも観察データの限界を超えるためのテクニックではなく、データの限界を明らかにした因果推論についてコミュニケートするためのフレームワークです。

東京大学大学院情報学環 准教授

篠崎 智大
しのざき ともひろ

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    深澤 俊貴、篠崎 智大、標的試験エミュレーション:観察研究における因果推論を強化するためのフレームワーク、2025、薬剤疫学、30巻2号、p. 53-73には、標的試験エミュレーションの概念的基盤の整理とともに、実装において考慮すべき事項が全般的にまとめられています。
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    The TARGET (TrAnsparent ReportinG of studies Emulating a Target trial) Guideline、The TARGET Guidelineホームページ、https://target-guideline.org/、2026年3月25日
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    深澤 俊貴、篠崎 智大、標的試験エミュレーションによる不死時間への対処:逐次試験エミュレーションとClone-Censor-Weight法、薬剤疫学、2026、早期公開には、「time 0」を基準とした時点同期の必要性と、「逐次試験アプローチ」「3ステップ法」を中心とした実装手順の詳細な説明、薬剤疫学での既存デザインとの対比があります。