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観察研究でランダム化試験を模倣するということ①
ステップ2:標的試験を「エミュレート」する
3つの時点の同期(time 0の設定)
標的試験をエミュレートする上での肝が「time 0」の設定です。time 0とは上で挙げたプロトコル項目の4にある「追跡開始時点」のことですが、適切に計画・実施されたランダム化試験で問題になることはまずありません。それは、適格判定による試験への組み入れ時点(プロトコル項目1)と同時または間を空けずに治療戦略(プロトコル項目2)のランダム割り付け(プロトコル項目3)がおこなわれ、このランダム割り付け時点がtime 0となるためです。つまり、
- 適格基準を満たした時点
- 治療戦略への割り付け時点
- 追跡を開始する時点
の3つが「time 0」として自動的に揃うようになっていて、これ以外のアドホックな扱い方や恣意性が入る余地はありません。
一方の観察研究では、この3時点のいずれか、またはいずれも揃わないような「研究デザイン」が頻発します。例えば、データ上の追跡開始(アウトカムイベントをカウントし始めるタイミング)の後になって判明する治療有無の情報によって、追跡開始時点に遡って群分け(追跡中に治療あり群 vs. 最後まで治療なし群)をしたり、逆に治療群分けと追跡が開始されるベースラインより後ろの情報を用いて、解析対象に含めるかどうかの適格性判断をしたりすると、時点が同期しなくなります1深澤 俊貴、篠崎 智大、標的試験エミュレーションによる不死時間への対処:逐次試験エミュレーションとClone-Censor-Weight法、薬剤疫学、2026、早期公開
には、「time 0」を基準とした時点同期の必要性と、「逐次試験アプローチ」「3ステップ法」を中心とした実装手順の詳細な説明、薬剤疫学での既存デザインとの対比があります。。このような状況では、immortal time bias(不死時間バイアス) 2筆者の中ではimmortal time biasは最も危険で忌避すべきバイアスの一つだと考えています。RWDの文脈での例は本文の後ろの記述に譲りますが、別の例として「オーケストラの指揮者は長生き」というものがあります(『ロスマンの疫学(第2版)』第1章)。しかし、指揮者は指揮者として生まれるわけではなく、指揮者になるためにはそもそも音楽家としてベテランである必要があり、一定期間生存しているという条件が指揮者であるという「曝露」変数に構造的に含まれています。このように、結果で結果を説明するような状態を引き起こすのがimmortal time biasであり、このバイアスが指摘されて撤回の憂き目にあった論文はいくつもあります。のような時間関連バイアスが構造的にデータに含まれてしまい、治療効果の推定値が極めて大きく歪んでしまいます。
もっとも、time 0 はいつも自明ではありません。以下に事例を示します。
time 0設定が悩ましい場面1:適格判定され続ける
1つめの状況は、同じ個人がデータベース内で何度も適格基準(プロトコル項目1)を満たしうる場合です。例えばスクリーニング研究や健康診断等のデータでは、同じ人であっても1週目、2週目、3週目…、または60歳、61歳、62歳…、と複数時点で適格基準を満たし続け、どこでも「試験」への組み入れが可能に見えることがあります。これらの場合にはtime 0に一意性がなく、(a)「えいや」で最初の時点やランダムな時点を1つ選んで「試験」に組み入れたとみなす方法と(b)すべての適格時点で逐次的に開始される相異なる「試験」に組み入れ続けたとみなす方法の2つがあります。
(a)は各対象者を1つの「試験」にただ1回だけ参加させてエミュレートするので単一試験(single trial)アプローチと呼ぶこともあります。(b)の逐次試験(sequential trials)アプローチは一見すると不自然ですが3現実にも、同じ患者さんが複数の臨床試験を「掛け持ち」して入ることはあるようですが、その功罪は脇に置いておきましょう。ここでの逐次試験は「同じプロトコルの試験を毎年新規に始めて、毎年リクルートされる対象者の大半は他の試験にも参加している」という状況で、現実に行われることはリソース的にもなさそうです。しかし、仮想的に考えたこれらの個々の試験に構造的にバイアスが生じるわけではないので、これらの試験結果をメタアナリシス的にまとめたものを考えて標的としても、知りたいものを表せていることになります。、同じ人が何度も別の「試験」に入ることによる相関を適当に考慮すれば4同一個人を「クラスター」(統計学の用語です)としてクラスターロバスト分散推定量を計算したり、個人単位でサンプリングし直すブートストラップ法を用いたりします。、全ての「試験」データをプールして群間比較(個人単位のメタアナリシス)することで、統計学的には(a)に比べて推定値のばらつきが小さくなることが期待されます。
この状況下では、いずれのやり方でも、試験参加時点をtime 0として追跡を始める限りは時点の非同期による時間関連バイアスを生じません。
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