傾向スコアに基づく交絡調整

東京医科大学医療データサイエンス分野 主任教授 田栗 正隆

傾向スコア解析の手順

傾向スコアは通常の観察研究では未知であるため、データから推定する必要があります。そのことを踏まえると、傾向スコアを用いた解析の手順は、以下のような手順にまとめることができます。

  1. データセットに、解析に用いる結果変数および治療群の情報と共に、調整したい交絡因子の情報を保存します。
  2. 傾向スコアPr (Z = 1|X)を推定するために、結果変数を治療群、交絡因子の組を説明変数とした回帰モデルを当てはめます。例えば、以下のようなロジスティック回帰モデルを適用することが考えられます。

    logit{Pr(Z=1|X)}=γ0+γ1X1+γ2X2++γpXp(1)\operatorname{logit}\{\Pr(Z=1\mid X)\} = \gamma_0 + \gamma_1 X_1 + \gamma_2 X_2 + \cdots + \gamma_p X_p \qquad (1)
    ここで、γはデータから推定すべき未知パラメータです。
  3. (1)式の当てはめにおいて推定されたγの値と個人ごとの交絡因子の値から、個人によって異なる傾向スコアの値を予測値として算出します。冒頭で紹介した事例においては、傾向スコアは解析対象となった集団(の母集団)で化学療法を受ける条件付き確率となります。
  4. 得られた傾向スコアを唯一の交絡因子とみなして、層別解析、回帰モデル、マッチング等による調整解析をおこないます。

傾向スコアマッチングによる解析事例

冒頭の事例に基づき、膀胱がん患者に対して手術後の化学療法群と経過観察群を比較した観察研究の傾向スコアマッチングによる解析結果を紹介します。マッチングには表1に提示した患者背景が交絡因子として用いられました。傾向スコアの算出にはロジスティック回帰が使用され、治療群を結果変数、全ての交絡因子を説明変数として計算がおこなわれました。化学療法群と経過観察群それぞれから傾向スコアが近い対象者をペアにする1:1マッチングをおこないました。傾向スコアの差の許容範囲であるマッチングのキャリパーには傾向スコアのロジットの標準偏差の0.2倍という基準を用いました。

表2にマッチング後の患者背景を示していますが、マッチング後は化学療法群、経過観察群それぞれ68名が解析対象となり、患者背景は同様になりました。この結果により、マッチング後は、少なくとも解析で考慮した患者背景については交絡がある程度以上調整された解析になっていると考えられます。このように、マッチング後の患者背景を比較することで、交絡調整がうまくいっているかを確認できることは、傾向スコアマッチングの大きな利点です。ここでは紹介しませんが、IPTW(inverse probability of treatment weighting)法と呼ばれる傾向スコアの重み付き解析においても、調整後の患者背景を比較することが可能です1Guo S, Fraser MW. Propensity score analysis: Statistical methods and applications, 2024,Vol. 11,Sage Publications.

化学療法群経過観察群p値
人数6868
年齢66.3 ± 9.968.4 ± 8.50.193
性別男性59 (86.8%)56 (82.3%)0.476
術前化学療法あり9 (13.2%)10 (14.7%)0.805
病理学的T分類pT03 (4.4%)2 (2.9%)0.796
pT15 (7.4%)7 (10.3%)
pT213 (19.1%)16 (23.5%)
≥ pT347 (69.1%)43 (63.2%)
リンパ節転移あり24 (35.4%)18 (26.5%)0.265
静脈侵襲あり42 (61.7%)38 (55.9%)0.488
リンパ管侵襲あり43 (63.2%)41 (60.3%)0.724
表2 Shimizuらの観察研究における術前因子の比較(傾向スコアによるマッチング後)

※連続変数は平均±標準偏差、カテゴリー変数は人数(%)で表しています。p値については、連続変数はt検定、カテゴリー変数はカイ二乗検定のp値を示しています。

この事例では、経過観察群に対する化学療法群のマッチング後の全生存期間に関するハザード比は0.75、95%信頼区間は0.43–1.32と算出され、解釈しやすい結果が得られました。

東京医科大学医療データサイエンス分野 主任教授

田栗 正隆
たぐり まさたか