日本におけるHealth Technology Assessment(HTA)の経緯と諸外国の状況
日本では医療の高度化に伴う医療保険財政への影響に対する懸念から、施行的導入を経て2019年4月から費用対効果評価制度が本格的に導入されました1厚生労働省、費用対効果評価制度の見直しに向けた今後の議論の進め方(案)、2021年、https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000770722.pdf、2024年10月7日。費用対効果評価制度は、それまで主に臨床的有効性・安全性、医療上の有用性から評価されていた医療技術を、経済的な観点からも評価する、即ち、ある製品が有効であるかどうかだけでなく、その価格を考慮して治療を受ける価値があるかどうか、を評価するものです。
このような費用対効果評価制度は、欧米で先行して導入されています。特に、イギリスにおける英国国立医療技術評価機構(NICE:National Institute for Health and Care Excellence)2National Institute for Health and Care Excellence (NICE)ホームページ、https://www.nice.org.uk/、2024年10月7日の制度は一つの標準となっており、カナダのCanada’s Drug Agency / L’Agence des médicaments du Canada(CDA-AMC)3Canada’s Drug Agency / L’Agence des médicaments du Canada (CDA-AMC)ホームページ、https://www.cda-amc.ca/、2024年10月7日、オーストラリアのThe Pharmaceutical Benefits Advisory Committee(PBAC)4The Pharmaceutical Benefits Advisory Committee (PBAC)ホームページ、https://pbac.pbs.gov.au/、2024年10月7日などが同様の制度を導入しています。これらの国々では基本的に質調整生存年(QALY:Quality-adjusted life year)を評価指標とした増分費用効果比(ICER:Incremental cost-effectiveness ratio)が一定の閾値を満たすかどうかにより公的保険による償還の可否について勧告するという特徴があります。一方、欧州大陸のドイツ(IQWiG:Institut für Qualität und Wirtschaftlichkeit im Gesundheitswesen5Institut für Qualität und Wirtschaftlichkeit im Gesundheitswesen (IQWiG)ホームページ、https://www.iqwig.de/、2024年10月7日)、フランス(HAS:Haute Autorité de Santé6Haute Autorité de Santé (HAS)ホームページ、 https://www.has-sante.fr/、2024年10月7日)ではNICEとは異なり、評価結果は償還の可否ではなく価格交渉の材料として用いられています(表1)。
国 | 評価機関 | 概要 |
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イギリス | NICE | ・ガイドラインに基づきQALYで評価する ・評価においてはICERだけでなく、小児疾患や致死的疾患に対する延命治療など特定の要素について総合的評価をおこなう ・評価結果を基に公的保険における償還の可否について勧告する |
カナダ | CDA-AMC | |
オーストラリア | PBAC | |
ドイツ | IQWiG | ・ガイドラインに基づいて評価するが、評価指標にQALYは用いない ・評価結果は償還の可否には用いず、価格の交渉材料とする |
フランス | HAS | ・ガイドラインに基づいて評価し、評価指標としてQALYを用いてもよい ・評価結果は償還の可否には用いず、価格の交渉材料とする |
また、民間医療保険が主流であるアメリカでは製薬企業と保険者が合意すれば自由に薬価を定めることができますが、独立したHTA機関(Institute for Clinical and Economic Review 7Institute for Clinic and Economical Review ホームページ、https://icer.org/、2024年10月7日)が透明性を高めるためにレポートを提供しています。
- 1厚生労働省、費用対効果評価制度の見直しに向けた今後の議論の進め方(案)、2021年、https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000770722.pdf、2024年10月7日
- 2National Institute for Health and Care Excellence (NICE)ホームページ、https://www.nice.org.uk/、2024年10月7日
- 3Canada’s Drug Agency / L’Agence des médicaments du Canada (CDA-AMC)ホームページ、https://www.cda-amc.ca/、2024年10月7日
- 4The Pharmaceutical Benefits Advisory Committee (PBAC)ホームページ、https://pbac.pbs.gov.au/、2024年10月7日
- 5Institut für Qualität und Wirtschaftlichkeit im Gesundheitswesen (IQWiG)ホームページ、https://www.iqwig.de/、2024年10月7日
- 6Haute Autorité de Santé (HAS)ホームページ、 https://www.has-sante.fr/、2024年10月7日
- 7Institute for Clinic and Economical Review ホームページ、https://icer.org/、2024年10月7日
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