分析枠組みの決定
ある製品の費用対効果は、ある患者集団に対してその製品を使用した場合に別の製品を使用した場合と比較してどれだけの追加費用でどれだけの追加QALYを獲得できるかにより評価されることになります。したがって、対象となる患者集団と比較対照となる製品の選定が、結果に大きく影響します。この対象となる患者集団と比較対照となる製品のことを分析枠組みと呼びます。
品目が費用対効果評価制度の対象となった場合、企業は費用対効果評価制度を実施する保健医療経済評価研究センター(C2H:Center for Outcomes Research and Economic Evaluation for Health 1国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)ホームページ、https://c2h.niph.go.jp/、2024年10月7日)と分析枠組みについて協議し、合意する必要があります。この協議の仕組みを分析前協議と呼びます。
分析の実施
分析枠組み決定後、企業はC2Hのガイドラインに従って費用対効果を分析し、C2Hの指定書式により企業分析報告書を提出しなければなりません。企業分析報告書は、品目指定されてから9か月(270日)以内に提出する必要があり、この期間には分析前協議の期間も含まれます。分析枠組みの決定は3か月程度でおこなうと目安が示されていますが、企業とC2Hの見解が一致することは稀であるため、多くの場合時間を要します。
分析によりICERを得るためには、対象品目と比較対照のそれぞれについて、費用とQALYをシミュレーションにより算出する必要があります。シミュレーションに際しては、1か月あたりの医療費、対象品目と比較対照の効果の差、患者のQOLなど様々な値を必要としますが、原則としてそれらはエビデンスに基づいている必要があります。しかし、臨床試験だけからシミュレーションに必要な全ての値を得ることは現実的ではないため、データベース研究、文献調査、専門家に対するアンケートなど様々な手法が必要になります。情報源ごとに患者の背景は異なるため、様々な手法で得られた結果を組み合わせることには限界があります。それゆえに、アウトカムを記録した電子カルテと費用を記録したレセプトを連結できる次世代医療基盤法に基づくデータベースが費用対効果分析に役立つことが期待されます。
企業が提出した分析報告書の妥当性は公的分析班によりレビューされ、必要に応じて再分析がなされます。公的分析班とC2Hは、企業が分析報告書を提出してから最大6か月(180日)以内に公的分析結果を提出します。企業分析結果と公的分析結果に基づき、最終的な評価結果が決定されます。
価格調整
最終的な評価結果により価格の調整が行われますが、前述の通り日本におけるHTAは薬価・材料価格制度を補完するものであるため、価格調整の対象となるのは原則としては有用性加算部分ですが、原価計算方式で開示度が低い場合は営業利益と有用性加算部分の両方が対象となります。価格調整係数はICERの閾値により決定されますが、NICEの制度を参考にし、総合的評価により配慮が必要とされた品目(抗がん剤、小児疾患など)についてはICERの閾値が緩和されます(表3)。
標準的品目の閾値 (万円/QALY) | 配慮が必要な品目の閾値(万円/QALY) | 有用性加算の 調整係数 | 営業利益の 調整係数 |
---|---|---|---|
<500 | <750 | 1.0 | 1.0 |
<750 | <1125 | 0.7 | 0.83 |
<1000 | <1500 | 0.4 | 0.67 |
>=1000 | >=1500 | 0.1 | 0.5 |
価格調整は減額だけではなく、ICERが200万円/QALY未満であるなど費用対効果が良いとされた場合は増額もされる可能性がある設計となっています。特に、比較対照品目に対して効果が同等以上であるにもかかわらず費用が削減される場合をドミナントと呼び、増額幅が大きく設定されています。
- 1国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)ホームページ、https://c2h.niph.go.jp/、2024年10月7日
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