MSLの資質要件
外部の認定制度は前述の2つが主ですが、このほかにMSLに望ましい資質要件として表1のような要件が定義されています。
JAPhMed(一般財団法人 日本製薬医学会) | JPMA(日本製薬工業協会) |
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【資格要件】 – 教育機関にて医学・薬学関連の教育を受けた者 • 学位(修⼠号、博⼠号)を有する者、または医師、 ⻭科医師、薬剤師等の医療資格、修⼠号、博⼠号の 学位を持っていることが望ましい – 関連する規制や社内標準業務⼿順書について継続的に教育、訓練を受けている者 | 【要件】 会員会社は、以下の事項に留意のうえ、MSLの役割を果たすために必要な要件を規定する。 1.要件の規定は、MSLが担当する疾患領域の最新の知見等に基づき、科学的観点での情報交換や意見交換を適切に行いうることを保証するものである。 2.要件を満たすためには、例えば医師、薬剤師等の医療分野での資格の取得または教育機関における医学、薬学等の自然科学分野での学位の取得が考えられる。 3.MSLは、MSL活動に関連する規制等や社内基準または社内手順書等について十分に理解すると共に、担当疾患領域の医薬品等に関する必要な知識を習得している必要がある。 4.MSLは、MSLとしての活動を開始するに先立ち、社内で定められたプログラムによる研修を修了する必要がある。また常に最新の知識を習得しておくために継続的な研修の受講が求められる。 |
【望ましい資質要件】 – 疾患領域において医学的・科学的に⾼度な学術知識を有する者 – 科学的合理性および倫理的妥当性を持ち、根拠に基づき、正確、公正かつ客観的に判断ができる者 – 医療従事者と円滑なコミュニケーションをとれる者 基本的事項 • MSLの役割、使命を理解している • 倫理観を有している • 秘密を保全できる • 臨床研究に関わる⼀般的知識を有している • 関連する規制要件や社内標準業務⼿順書を理解し、遵守できる |
なおJPMAはQ&A内にて、自然科学分野での学位取得例として、医学、薬学、獣医学、歯学、看護学、臨床検査学、理学、工学、農学、心理学(医療や医学に関連する分野)等を挙げています3日本製薬工業協会、メディカル・サイエンス・リエゾンの活動に関する基本的考え方、日本製薬工業協会ホームページ、2019年、https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/basis/rfcmr00000002zsh-att/msl-jp_20190401.pdf、2024年10月18日。
実際に製薬企業に在籍しているMSLの保有資格と学位に関する状況は、2021年の調査では薬剤師が351名、医師4名、獣医師20名と、MSLの保有資格としては薬剤師が突出して多い結果でした。また学位に関しては、理系学士が347名、理系修士が341名、Ph.D.保有者が211名、公衆衛生修士(MPH)保有者が9名、経営学修士(MBA)保有者が12名でした。とくに外資系企業は内資系企業と比べて博士号を持つMSLの割合が高いとの結果が出ています4森次 幸男、柴 英幸、福井 元子、西馬 信一、メディカルアフェアーズ/メディカル・サイエンス・リエゾンの組織構造と医療貢献、医薬品情報学、2022、24、38-65。
ただし、必ずしも特定資格や学位がMSLの要件となるわけではなく、社外医科学専門家とのコミュニケーションには、議論が成り立つに足る医科学的知識とそれをアップデートする素養が必要との考えに基づく要件といえます。MSLの増加、業務拡大により必要な資質そのものが拡大しつつあり、あらたにExpert MSLのコンピテンシーを定める動きもみられています。
Expert MSLのコンピテンシー
2024年にJAPhMedは、Expert MSL を目指す方向けに「Competencies for Advanced MSL」を公表しました5一般財団法人 日本製薬医学会(JAPhMed)、Competencies for Expert MSLチェックリスト公表のお知らせ、一般財団法人 日本製薬医学会(JAPhMed)ホームページ、2024年、https://japhmed.jp/whats_new/20240626_1.html、2024年10月18日。MSLの任務遂行に必要なコンピテンシーをチェックリスト形式で記載したもので、記載項目に対応できることがゴールとして設計されています。医科学的専門性に加え、ビジネススキルや組織管理に関する項目も記載されています。外部の医療従事者とのインターフェースとなるMSLは、知識のみならずソフトスキルの保有も重要です。調査からも、内資系・外資系企業を問わず、リーダーシップ、ロジカルシンキング、コミュニケーションスキルは自社MSLの育成余地があると考える企業が一定数見受けられており、特に外資系企業は、これらのソフトスキル開発プログラムに注力している様子もうかがえます6森次 幸男、柴 英幸、福井 元子、西馬 信一、メディカルアフェアーズ/メディカル・サイエンス・リエゾンの組織構造と医療貢献、医薬品情報学、2022、24、38-65。
したがってExpert MSLのように、MSLに求められる水準は今後ますます高まると考えられます。それに伴い教育制度や認定制度の整備も進むことが期待されるでしょう。しかし、制度によらずMSLにもっとも必要な資質は、変化の激しい医療環境下でも自らを研鑽し続ける学びの姿勢かもしれません。
- 1一般財団法人 日本製薬医学会(JAPhMed)メディカルアフェアーズ(MA)部会、MSL提⾔報告、一般財団法人 日本製薬医学会(JAPhMed)ホームページ、2017年、https://japhmed.jp/files/MSL_Recommendation_2017_JAPhMed_JP.pdf、2024年10月18日
- 2日本製薬工業協会、メディカル・サイエンス・リエゾンの活動に関する基本的考え方、日本製薬工業協会ホームページ、2019年、https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/basis/rfcmr00000002zsh-att/msl-jp_20190401.pdf、2024年10月18日
- 3日本製薬工業協会、メディカル・サイエンス・リエゾンの活動に関する基本的考え方、日本製薬工業協会ホームページ、2019年、https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/basis/rfcmr00000002zsh-att/msl-jp_20190401.pdf、2024年10月18日
- 4森次 幸男、柴 英幸、福井 元子、西馬 信一、メディカルアフェアーズ/メディカル・サイエンス・リエゾンの組織構造と医療貢献、医薬品情報学、2022、24、38-65
- 5一般財団法人 日本製薬医学会(JAPhMed)、Competencies for Expert MSLチェックリスト公表のお知らせ、一般財団法人 日本製薬医学会(JAPhMed)ホームページ、2024年、https://japhmed.jp/whats_new/20240626_1.html、2024年10月18日
- 6森次 幸男、柴 英幸、福井 元子、西馬 信一、メディカルアフェアーズ/メディカル・サイエンス・リエゾンの組織構造と医療貢献、医薬品情報学、2022、24、38-65