製薬企業と医学教育助成

医学教育助成の仕組み及び代表例

医学教育助成はMA部門が主体として管理・運営するものですが、製薬企業自体の戦略として行われ、多くの場合、対象となる疾患領域もその年度の重点領域になります。

資金提供の適切性が必要であること、専門家団体との契約締結が含まれることから、計画段階からコンプライアンス部門や法務部門との相談、またコーポレートサイトにかかる広報部門の対応、現場対応にあたっては営業部門との線引きを明確に定めるなど、社内において各種部門との連携が不可欠です。またMA部門内の各疾患領域担当チームと公平及び横断的にコミュニケーションする必要があるため、医学教育助成についてはMA部門内に専門チームを設置することが望ましいと考えられます。

その主な業務として、該当年度の予算編成、各領域の助成金額及び本数の上限設定、申請要項の作成、申請を受け付けるウェブサイトの作成、申請受付期間、社内審査スケジュールや結果通知時期をはじめとする年間予定の策定などが行われます。特に重要な段階である審査においては、学会の専門的な教育活動を評価することが必要であるため、MA部門内の各領域の部門長及び本部長が含まれること、必要に応じて社外審査委員の導入を検討することが望ましいといえます。十分な審査スケジュールの確保や、企業の年度内の予算で実施し、かつ年度内に確実に助成金支払いを完了できるよう、申請受付期間を限られた期間(例. 2か月前後)とすることになります。

医学教育助成の多くは公募制となっており、申請団体の意思で申請を受け付ける形式となっています。そのため製薬企業側は専門家団体へ医学教育助成の開始を案内することはあっても、応募を依頼することはできません。

<医学教育助成の例>

医学教育助成の専用ウェブサイトを作成し、申請要項に沿った情報が公開されます。各社により対象団体や対象活動の基準は異なるため、代表的な例を示します。

図1. 代表的な流れ

留意点の例:

  • 対象団体は医療用医薬品製造販売業公正競争規約に規定されている「団体性の判断基準」(参考欄)を満たした団体であり、個人による申請はできない
  • 日本国内に本体がある団体であり、全ての事業が日本国内で行われること
  • 企業が指定する領域・疾患のテーマに基づいた教育活動であること
    例1. 〇〇疾患に関する早期診断・治療のための実践的講座(6回/年)の実施
    例2. □□症に関するe-learningシステムの開発と実施
  • 対象活動は申請団体が自ら企画・立案・実施するものであり、製薬企業がその活動の立案や実行に関与することはない
  • 活動期間が定まっていること。(例. 1年間)次年度以降の活動が含まれていても、助成対象としない
  • 応募された教育事業の内容により、不採択及び申請金額が減額されることがある
  • 教育事業が全て終了した際には、活動報告書及び収支報告書を提出する。契約に反する内容及び余剰金が発生した場合は返金が必要になることがある
  • 助成を受けた場合、製薬協による「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」に基づき、該当団体への支援内容及び金額が製薬協及び各製薬企業のウェブサイト上で公表される

(参考:団体性の判断基準)1医療用医薬品製造販売業公正取引協議会、医薬品業等告示及び公正競争規約、同施行規則、同運用基準、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会ホームページ、2024年、https://www.iyakuhin-koutorikyo.org/data/general/医薬品業等告示及び公正競争規約、同施行規約、同運用基準.pdf、2024年11月28日

代表的な医学教育助成では、医学関連学会などの専門家団体を対象としています。その基準は以下のように明確に定められており、全て満たす必要があります。医学教育助成には大小さまざまな団体が申請することになりますが、この基準を参考に対象団体に合致しているか判断することができます。

  1. 異なる医療機関等に所属する多数の医療担当者等の組織、あるいは主として医療担当者等以外の者の組織に医療担当者等が関与している場合であって、単に親睦や娯楽を目的とする組織ではなく他の明確な目的を有した組織であること
  2. 会則等の組織規定、総会等の意思決定機関を持ち、会長、代表幹事等の代表者の定めがあること
  3. 独立会計を行っていること(会費を徴収し、その他の収入、運営費用の支出等に関する財務・会計の規定を持ち、会員個人及び会員の所属する各医療機関等とは別個独立の経理を行い、収入は専ら組織の運営・維持のために用いられること。)
  4. 明確な事業計画を有し、定例的に事業目的に則った活動が行われること
  5. 医療担当者等の所属する医療機関等の通常の医療業務や医療機関等の広告・宣伝、受診勧誘を目的とする組織でないこと
  6. 医療機関等が所属する医療担当者等のための研修と同様の内容をおこなう組織でないこと
  7. 参加医療担当者等の医学知識・医療技術・その他関連知識等の修得・向上の共同研修を主目的とする組織でないこと