アンメット・メディカル・ニーズ把握の目的

アンメット・メディカル・ニーズとは

アンメット・メディカル・ニーズの概念

アンメット・メディカル・ニーズ(UMN)とは、医療分野における満たされていないニーズを指し、厚生労働省の「医薬品産業ビジョン2021」1厚生労働省、医薬品産業ビジョン2021、厚生労働省ホームページ、2021年、 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000831973.pdf、2024年2月20日においても、革新的創薬における重要な視点として言及されています。

治療アクセスについて

治療技術が存在しない疾患領域については明らかなUMNが存在します。中でも、欧米で承認済みの治療技術があるにもかかわらず国内では未承認の場合は、ドラッグ・ラグと呼ばれて、厚生労働省主導で医療従事者、製薬企業などの関係主体の協力のもとで、問題の改善に当たってきました2厚生労働省、アンメット・メディカル・ニーズに対する現状の対応、厚生労働省ホームページ、2009年、https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/06/dl/s0603-8d_0006.pdf、2024年3月1日 3吉田 昌生、ドラッグ・ラグ:国内未承認薬の状況とその特徴、日本製薬工業協会ホームページ 日本製薬工業協会JPMA News Letter、2021年、https://www.jpma.or.jp/news_room/newsletter/205/pdf/05pc.pdf、2024年2月20日。日本製薬工業協会は、国内未承認薬数の推移や薬効分類別の開発状況を整理して、ドラッグ・ラグの観点からUMNの現状をモニタリングしています4吉田 昌生、ドラッグ・ラグ:日本と欧州の未承認薬状況の比較-2010~2021年の米国承認薬をもとに-、医薬産業政策研究所ホームページ 日本製薬工業協会政策研ニュース、2022年、https://www.jpma.or.jp/opir/news/067/bi62u8000000038h-att/67_2.pdf、2024年2月20日(図1)。

図1. FDA 承認新規有効成分(2010~2021 年)のうち国内未開発の割合(2021 年末時
点)(*4 の報告内容をもとに株式会社ヘルスケアコンサルティングが作成)

潜在ニーズについて

一方で、治療技術が存在するにもかかわらず、充分なアウトカム改善に至っていない疾患領域は依然として残っています。また、治療技術が存在しない疾患領域の間でも、UMNの大きさに違いがあるなど、治療技術の有無だけではUMNを評価することは難しい現状があります。

例えば、脂質異常症の治療においては2012年に発刊された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版(JAS2012)」からLDL-C値の管理目標が設定されました。併存疾患や罹病歴に応じて動脈硬化性疾患発症リスクが異なる一次予防カテゴリーⅠ/Ⅱ/Ⅲ群、二次予防群に分類し、リスクが高いほど厳しいLDL-C管理を求めました。しかし、電子カルテ情報を分析した報告5小久保 欣哉、正路 章子、電子カルテデータベースをもちいた脂質異常症の治療実態に関する探索的検討、細胞、2015、47、356-359では、一次予防カテゴリーⅢ群や二次予防群に区分されるような患者さんであるにもかかわらず、投薬治療が観察されない(必要な治療が行われていないことによる残余リスク)、あるいは投薬されていても管理目標に到達していないことによる残余リスクが認められました(図2)。

図2. 残余リスクを有する患者の分類(*5 の報告内容をもとに株式会社ヘルスケアコン
サルティングが作成)

また、未承認薬の使用に関する電子カルテデータの分析報告からは、適応外での処方実態から、適応のない疾患に対する治療効果の期待、すなわち潜在ニーズが示されています6小久保 欣哉、正路 章子、リアルワールドデータのドラッグ・リポジショニングへの活用、月刊ファームステージ、2017、17、54-58。この報告では、1回でもアバスチンの処方があった患者さんを対象に、2007~2013年のデータを用いて、アバスチンに「適応のあるがん種が原発」か「適応のないがん種が原発」か、あるいは「原発不明」、「その他」に分類しました。その結果、全体の約5%がアバスチンの「適応のないがん種が原発」であり(図3)、うち最も多かったのは「胃がん」でした。アバスチンはその後第3相臨床試験での主要評価項目を達成せず、適応拡大は実現しませんでしたが、実臨床での治療効果への期待がデータに現れていたと示唆されました。

図3. 適応のない疾患での治療効果の期待の定量化(*6 の報告内容をもとに株式会社ヘル
スケアコンサルティングが作成)
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アンメット・メディカル・ニーズ把握の手法
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    厚生労働省、医薬品産業ビジョン2021、厚生労働省ホームページ、2021年、 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000831973.pdf、2024年2月20日
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