アンメット・メディカル・ニーズへの対応とは
アンメット・メディカル・ニーズ(UMN)とは、医療分野における満たされていないニーズであり、治療技術が存在しない疾患領域などが挙げられます。そのため、UMNを把握するだけでなく、その解決策としていかに有効な治療技術や診療環境を提供できるか、といった対策が重要となります。
重症喘息治療薬の事例
UMNの疾患事例として重症喘息を見てみると、現在日本では、重症喘息に対する抗体薬として5種類が販売されています(表1)。
一般名 | 製薬企業 | 作業機序 | 発売・適応時期 |
---|---|---|---|
オマリズマブ | ノバルティス ファーマ | 抗IgE抗体 | 2009年3月 |
メポリズマブ | グラクソ・スミスクライン | 抗IL-5抗体 | 2016年6月 |
ベンラリズマブ | アストラゼネカ | 抗IL-5受容体α抗体 | 2018年4月 |
デュピルマブ | サノフィ | 抗IL-4/13受容体抗体 | 2019年3月 |
テゼペルマブ | アストラゼネカ | 抗TSLP抗体 | 2022年11月 |
2018年以降の重症喘息の治療に関するガイドラインでは、フェノタイプ1フェノタイプとは、診断基準に基づいた単一の慢性喘息という疾患の中に、病態や予後が明らかに異なる複数の病型が存在することを指す。に応じた重症喘息の個別化治療に言及されており、血中好酸球数、呼気中一酸化窒素濃度レベル、喀痰好酸球比率、アトピー型喘息かどうか、などを指標としたスクリーニングの実施などにより、各抗体薬の適応を確認するよう推奨しています2井上 博雅、教育講演①重症喘息の診断と治療、日本内科学会雑誌、2019、108(9)、1860-1865。また喘息治療の4つのステップのうち最終段階のステップ4に、表1で示した抗体薬のうち2022年11月に発売されたテゼペルマブ以外の薬剤が選択肢として掲載されています3新実 彰男、ガイドラインのワンポイント解説:喘息予防・管理ガイドライン(成人喘息)2018-重症喘息の治療を中心に-、アレルギー、2019、68(6)、669-674 4中村 陽一、ガイドラインのワンポイント解説:喘息予防・管理ガイドライン(成人喘息)2018、アレルギー、2020、69(4)、245-249。
喘息治療の4つのステップは2006年のガイドラインから提示されており、2009年のガイドラインで初めて、ステップ4の選択肢として抗IgE抗体が記載されました5一ノ瀬 正和、ガイドラインのワンポイント解説:喘息予防・管理ガイドライン2009-薬物療法のポイント-、アレルギー、2010、59(2)、92-97。また、2009年のガイドラインではフェノタイプの言及はないものの、抗IgE抗体使用の対象として、ステップ4の他の治療薬の組合せでコントロール不十分であることに加えて、重症アトピー型喘息患者であることが記載されています6一ノ瀬 正和、ガイドラインのワンポイント解説:喘息予防・管理ガイドライン2009-薬物療法のポイント-、アレルギー、2010、59(2)、92-97。これに先立って、2005年にステップ4の治療でもコントロール不十分な喘息患者に対する抗IgE抗体の有効性を示す海外の報告があり、2006年版の国際ガイドラインでステップ4の選択肢として抗IgE抗体が記載されました7谷本 安、高橋 清、V.喘息の亜型・特殊型 4.重症難治性喘息、日本内科学会雑誌、2009、98(12)、3103-3113。
この事例は、発売とほぼ同時期に、ガイドライン上で言及されたというだけでなく、新たな患者像の定義の先駆けとなった例と言えます。ガイドラインに掲載されるには十分なエビデンスが必要であることから、ガイドライン作成・改訂に関する議論をにらみながら、臨床試験を計画・遂行し、適切な時期にエビデンスを創出した例と考えられます。
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