傾向スコアに基づく交絡調整

東京医科大学医療データサイエンス分野 主任教授 田栗 正隆

前回に引き続き、観察研究における交絡調整の問題を取り扱います。事例として、Shimizuらがおこなった浸潤性膀胱がんにおける膀胱全摘後のプラチナベース補助化学療法群と経過観察群を比較した観察研究を考えます1Shimizu F, Muto S, Taguri M et al.. Effectiveness of platinum-based adjuvant chemotherapy for muscle-invasive bladder cancer: A weighted propensity score analysis. Int J Urol. 2017, 24, 367-372.。表1は、研究対象となった322名における化学療法群と経過観察群の患者背景を示したものです。

化学療法群経過観察群p値
人数74248
年齢65.1 ± 10.568.0 ± 9.70.031
性別男性64 (86.5%)213 (85.9%)0.896
術前化学療法あり10 (13.5%)25 (10.1%)0.405
病理学的T分類pT03 (4.1%)28 (11.3%)<.0001
pT15 (6.8%)97 (39.1%)
pT213 (17.6%)47 (19.0%)
≥ pT353 (71.6%)76 (30.6%)
リンパ節転移あり29 (39.2%)26 (10.5%)<.0001
静脈侵襲あり46 (62.2%)76 (30.6%)<.0001
リンパ管侵襲あり48 (64.9%)86 (34.7%)<.0001
表1 Shimizuらの観察研究における術前因子の比較

※連続変数は平均±標準偏差、カテゴリー変数は人数(%)で表しています。連続変数はt検定、カテゴリー変数はカイ二乗検定のp値を示しています。

この表を見ると、経過観察群と比較して、化学療法群で平均年齢が低く、病理学的T分類のステージが高い傾向があり、リンパ節転移・静脈侵襲・リンパ管侵襲の割合が高いことが分かります。介入方法と死亡の関連を検討する際、このように群間で様々な患者背景の分布が異なる場合、これらの因子の影響を考慮せずに群間比較をおこなった結果において仮に化学療法群の方が経過観察群よりも予後が良かったとしても、介入方法の違いが因果的に生命予後の差を生み出しているのか、それとも経過観察群で平均年齢が高いために見かけ上化学療法群の予後が良くみえるバイアスが生じているだけなのか、区別することができません。この例での年齢のように、治療と関連していて疾患発生にも影響を与えるような因子(交絡因子)により、原因と結果の関係が歪められてしまう現象が交絡です。

傾向スコア

ここでは、傾向スコア(propensity score)に基づく交絡調整方法について解説します。治療群をZ(1: 治療群、0: 対照群)、交絡因子の組の情報をXで表します。治療を受ける条件付き確率Pr (Z = 1| X)で定義される傾向スコアは、調整したい交絡因子全てから計算される1つの要約スコアであり、このスコアのみを調整解析に用いれば、「未測定の交絡因子が存在しない」という仮定のもとで、正確な治療効果が推定できることが知られています2Rosenbaum PR, Rubin DB.The central role of the propensity score in observational studies for causal effects. Biometrika, 1983, 41-55.。したがって、傾向スコアを用いた方法は、多くの交絡因子を考慮した調整済み治療効果を算出するのに有効な方法であると言えます。

傾向スコアの優れた特性として、バランス特性(balancing property)が挙げられます。すなわち、傾向スコアを条件付けると治療Zと交絡因子Xが独立になるという性質があります3Rosenbaum PR, Rubin DB.The central role of the propensity score in observational studies for causal effects. Biometrika, 1983, 41-55.

ZX|e(X)Z \mathrel{\char”2AEB} X \mid e(X)

ここで、AB|CA \mathrel{\char”2AEB} B \mid Cは、Cを条件付けたもとでABが独立であることを示しています。バランス特性が意味しているのは、傾向スコアが等しい対象者では、もともとの交絡因子Xは治療群間で均等に分布するということです。したがって、傾向スコアを条件付けて比較することにより、表1のような共変量のアンバランスがない、交絡を適切に調整した解析をおこなうことができます。