関節リウマチ治療の満足度における医師と患者のギャップに関する事例
関節リウマチの治療薬として、2003年に日本で最初の生物学的製剤であるインフリキシマブが発売されて以降、臨床的寛解に至る患者の割合は増加し、2000年には10%未満でしたが2018年には約60%まで増加しました1Yamanaka H, Tanaka E, Nakajima A, Furuya T, Ikari K, Taniguchi A, Inoue E, Harigai M. A large observational cohort study of rheumatoid arthritis, IORRA: Providing context for today’s treatment options. Mod Rheumatol. 2020 Jan;30(1):1-6.。現在、第一選択薬のメトトレキサートで効果不十分だった場合の選択肢として、生物学的製剤は9種類、経口のJAK阻害薬も5種類存在します。
そうした環境の中で、2020年に改訂されたガイドラインでは、推奨度の決定に対して、エビデンスの確実性だけでなく、望ましい効果と望ましくない効果とのバランスに加え、患者の価値観や意向、コストや資源利用についても考慮されています2川人 豊、関節リウマチ診療ガイドライン、日本内科学会雑誌、2022、111(3)、492-496。また治療原則にも、治療目標は患者とリウマチ診療医の共通の意思決定に基づく必要があると明記されているなど、患者の意向の尊重や関与がより重視されてきています3川人 豊、関節リウマチ診療ガイドライン、日本内科学会雑誌、2022、111(3)、492-496。
ガイドライン改訂に先立つ2018年には、大規模な国際的ランダム化比較試験の結果から、患者自身による自らの疾患活動性の評価と、医師による患者の疾患活動性の評価の間に乖離があることが示唆されました。患者自身の疾患活動性評価は痛みと強く相関していたのに対し、医師による疾患活動性評価は痛みだけでなく圧痛関節数や血液検査の結果と強く相関していました4Kaneko Y, Takeuchi T, Cai Z, Sato M, Awakura K, Gaich C, Zhu B, Guo J, Tanaka Y. Determinants of Patient’s Global Assessment of Disease Activity and Physician’s Global Assessment of Disease Activity in patients with rheumatoid arthritis: A post hoc analysis of overall and Japanese results from phase 3 clinical trials. Mod Rheumatol. 2018 Nov;28(6):960-967.。また、2019年には、患者による評価と医師による評価が一致している患者と不一致の患者を比べた結果として、身体的な機能障害の程度を表すHAQ (Health Assessment Questionnaire)について、診断時に差がないにもかかわらず1年後には不一致群の方が有意に悪化していたと報告されました5金子 祐子、VIII.関節リウマチ診療におけるpatient reported outcomeの重要性、日本内科学会雑誌、2019、108(10)、2124-2128。
関節リウマチのように治療選択肢が増加し、患者の重症度が大きく改善された後でも、潜在的なUMNが存在することを示す例であり、患者報告アウトカム(patient reported outcome)という新たな測定ツールによってUMNを明らかにした例と言えます。
UMNへの対応の考え方
潜在的なUMN把握は、新たな治療対象セグメントの発見に繋がると考えられます。また、発見されたUMNがガイドラインなどを介して周知されれば、解決すべき課題として共通認識が醸成されます。そうした状況下で、UMN解消に繋がる新たなソリューションとして新しい治療技術や新たな診療方針が提供されれば、患者・医療従事者にとって大きなベネフィットとなると考えられます。
- 1Yamanaka H, Tanaka E, Nakajima A, Furuya T, Ikari K, Taniguchi A, Inoue E, Harigai M. A large observational cohort study of rheumatoid arthritis, IORRA: Providing context for today’s treatment options. Mod Rheumatol. 2020 Jan;30(1):1-6.
- 2川人 豊、関節リウマチ診療ガイドライン、日本内科学会雑誌、2022、111(3)、492-496
- 3川人 豊、関節リウマチ診療ガイドライン、日本内科学会雑誌、2022、111(3)、492-496
- 4Kaneko Y, Takeuchi T, Cai Z, Sato M, Awakura K, Gaich C, Zhu B, Guo J, Tanaka Y. Determinants of Patient’s Global Assessment of Disease Activity and Physician’s Global Assessment of Disease Activity in patients with rheumatoid arthritis: A post hoc analysis of overall and Japanese results from phase 3 clinical trials. Mod Rheumatol. 2018 Nov;28(6):960-967.
- 5金子 祐子、VIII.関節リウマチ診療におけるpatient reported outcomeの重要性、日本内科学会雑誌、2019、108(10)、2124-2128
この記事はメール会員専用の記事です。
メール会員登録すると続きをお読みいただけます。