治験の最新動向と課題

治験の効率化

治験の生産性向上のため、レジストリ(疾患登録情報)や電子カルテ情報などのリアルワールドデータ(RWD)の活用、来院に依存しない治験(DCT: Decentralized Clinical Trial)による治験DXを進める動き1厚生労働省 医薬品開発協議会、治験に係る取組と今後の対応について、首相官邸ホームページ 、2023年、https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/iyakuhin/dai9/siryou3.pdf、2024年5月10日があり、創薬プロセスの効率化と加速が期待されています。

RWDの活用による治験の効率化

RWDを比較対照群として医薬品開発に活用することは臨床開発の効率化、開発費用の削減に繋げられることが期待されています2中塚 靖彦、臨床開発における治験対照群の利活用、医薬産業政策研究所ホームページ 日本製薬工業協会政策研ニュース、2019年、https://www.jpma.or.jp/opir/news/058/pdf/pdf-13-01.pdf、2024年5月10日。とくにがんや希少疾患の治験においてRWDを比較対照群とすることで、プラセボ投与に割り当てられる被験者をなくし、限られた被験者を効率よく治験に組み入れることが可能となります。主なRWDには、レセプトデータベース、電子カルテデータベース、レジストリ3レジストリは*4で示す文献において、「特定の疾患に対して、目的に即した患者情報を収集するために構築されたシステム」と定義される。がありますが、RWDを治験の有効性や安全性評価に活用するためには、検査値などアウトカム情報が必須であり、それらを含む電子カルテデータベースが適していると考えられます。

レジストリは比較対照群としての利用以外にも、治験の実施可能性の調査、目的とする疾患のレジストリに登録された患者の治験へのリクルートに活用することで、治験のプロセスの効率化が期待できます。実際、被験者の確保が困難な希少疾患、難病領域やがん(とくに、希少がん)領域では、患者リクルートや比較対照群に活用され、薬事承認に至った事例があります4日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会、医薬品開発における疾患レジストリの現状分析と展望、日本製薬工業協会ホームページ、2019年、https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/lofurc0000005kg4-att/disease_registry_analysis.pdf、2024年5月10日

DCTの活用による治験の効率化

日本の治験参加者に行った調査では、治験に伴う拘束時間や通院に負担を感じていたとの報告があります5延山 宗能、わが国における治験実態および患者満足度調査—治験参加前,治験参加後,今後の治験への期待—、THERAPEUTIC RESEARCH、2019、40(12)、961-80。患者の治験参加の促進や途中離脱を最小限に抑えた治験を行うため、従来型の患者の医療機関への来院が前提の治験に代わり、医療機関への来院に依存しない形での新しい治験としてDCTの導入が検討されています6日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会、医療機関への来院に依存しない臨床試験手法の導入及び活用に向けた検討、2020年、https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/lofurc0000005jr6-att/tf3-cdt_00.pdf、2024年5月10日。DCTはオンライン診療や訪問診療、ウェアラブルデバイスによる生体情報の収集・送信、電子患者報告アウトカム(ePRO)などを利用することにより、患者の医療機関への来院を減少させ、ゼロにすることも可能となります。DCTの実現により、これまでアクセス上の課題により治験への参加が困難であった潜在的な対象患者を治験に組み入れられる可能性があり、患者のリクルート期間の短縮と治験期間や費用の削減が期待されます。

患者リクルートの効率化

グローバル開発を見据えたとき、治験の合理化や生産性の向上のためには、患者リクルート期間の短縮は極めて重要です。グローバル開発では、世界各地から最も患者リクルートを進めやすい地域を探します。その際、希少疾患などの患者団体やアカデミアと連携することで、対象患者のいる施設を特定することが容易になります。また、国際共同試験を実施して世界同時に申請することで効率化を図ることができるため、日本人患者のリクルートにおいては国内だけでなく海外在住の日本人を対象に含めるという選択もあります。また、日本医療研究開発機構(AMED)では、日本主導の国際共同治験を強化し、迅速かつ質の高いグローバルな臨床研究・治験ネットワークの構築するための事業7臨床研究・治験推進研究事業(アジア地域における臨床研究・治験ネットワークの構築事業)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、https://www.amed.go.jp/program/list/16/01/010.html、2024年5月10日が進められています。