メディカルアフェアーズと治験
上市後速やかに製品を市場に浸透させるためには、治験進行中に費用対効果やWPAI(Work Productivity and Activity Impairment Questionnaire:仕事の生産性及び活動障害に関する質問票)、Budget Impactなどの経済性に関連するエビデンスを作り、上市に合わせて発信することが重要となります(「メディカルプランの目的②-製品の価値最大化とは」を参照)。
臨床開発は、最速のタイムラインで限定的な試験の実施にとどまる傾向にあるため、開発後期では市場のニーズを見据えた臨床評価を加えることが大切です。適切なタイミングで効果的なエビデンスを創出して発信するためにも、メディカルアフェアーズ(MA)部門として、現在の治験環境やその課題、新しい手法など治験の状況に目を配り、把握しておくことが必要です。
現在の治験を取り巻く環境と課題
治験には、その前後のプロセスを含めて10年以上の期間と数百億から数千億円規模の費用が必要となります1厚生労働省 国立高度専門医療研究センターの今後の在り方検討会、臨床研究に関する現状と最近の動向について、厚生労働省ホームページ、2018年、https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000358539.pdf、2024年4月26日 2Sean Lim、The Process and Costs of Drug Development (2022)、FTLOScienceホームページ、https://ftloscience.com/process-costs-drug-development/#google_vignette、2024年5月2日。日本の治験環境については欧米と比較して、データ入力やプロトコル逸脱などのクオリティ、被験者組み入れのスピードでは大きな違いはありませんが、費用面での違いが大きく、日本の方が欧米よりも費用が高いことが指摘されています3厚生労働省 創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会、治験の更なる効率化(エコシステム)について、厚生労働省ホームページ、2024年、https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001230278.pdf、2024年5月9日。日本の治験費用が高い要因として、CRA(Clinical Research Associate:臨床開発モニター)業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進んでおらずCRA費用が高いこと、医療機関への支払いが不透明で統一した基準がないことが挙げられています4佐藤 暁洋、国内外の治験をとりまく環境に係る最新の動向調査研究 総括研究報告書、厚生労働科学研究成果データベース、2023年、https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202206017A-sokatsu.pdf、2024年5月9日 5日本がグローバル試験から排除される日~最悪のシナリオを回避するための意識・行動改革~、第18回 CRCと臨床試験のあり方を考える会議2018 in 富山、2018年 6PHRMA/EFPIA JAPAN 共催セミナー グローバル試験から排除されないために~コスト意識が日本の治験を活性化する~、第20回 CRCと臨床試験のあり方を考える会議 2020 in NAGASAKI、2020年。一方で、治験の成功確率は年々低下しており、難易度が上昇しています7厚生労働省 国立高度専門医療研究センターの今後の在り方検討会、臨床研究に関する現状と最近の動向について、厚生労働省ホームページ、2018年、https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000358539.pdf、2024年4月26日。
また、欧米では承認されているが国内開発未着手であるドラッグ・ロスと呼ばれる状態の医薬品が86品目(未承認薬のうち60%)あり、その大部分がベンチャー発の医薬品、オーファン、小児領域であること8藤原 康弘、我が国の創薬力向上に向けての課題と対策、内閣官房ホームページ 創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議、2024年、https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/souyakuryoku/dai2/siryou3.pdf、2024年5月9日が指摘されています。これらの採算をとることが難しいとされる領域でドラッグ・ロスが発生していることからも、臨床開発全体を通した効率化を追求することが重要な課題です。厚生労働省の報告でも、治験手続きの合理化や治験の生産性の向上などが現在の治験の課題として挙げられています9厚生労働省 医薬品開発協議会、治験に係る取組と今後の対応について、首相官邸ホームページ 、2023年、https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/iyakuhin/dai9/siryou3.pdf、2024年5月10日。
- 1厚生労働省 国立高度専門医療研究センターの今後の在り方検討会、臨床研究に関する現状と最近の動向について、厚生労働省ホームページ、2018年、https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000358539.pdf、2024年4月26日
- 2Sean Lim、The Process and Costs of Drug Development (2022)、FTLOScienceホームページ、https://ftloscience.com/process-costs-drug-development/#google_vignette、2024年5月2日
- 3厚生労働省 創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会、治験の更なる効率化(エコシステム)について、厚生労働省ホームページ、2024年、https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001230278.pdf、2024年5月9日
- 4佐藤 暁洋、国内外の治験をとりまく環境に係る最新の動向調査研究 総括研究報告書、厚生労働科学研究成果データベース、2023年、https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202206017A-sokatsu.pdf、2024年5月9日
- 5日本がグローバル試験から排除される日~最悪のシナリオを回避するための意識・行動改革~、第18回 CRCと臨床試験のあり方を考える会議2018 in 富山、2018年
- 6PHRMA/EFPIA JAPAN 共催セミナー グローバル試験から排除されないために~コスト意識が日本の治験を活性化する~、第20回 CRCと臨床試験のあり方を考える会議 2020 in NAGASAKI、2020年
- 7厚生労働省 国立高度専門医療研究センターの今後の在り方検討会、臨床研究に関する現状と最近の動向について、厚生労働省ホームページ、2018年、https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000358539.pdf、2024年4月26日
- 8藤原 康弘、我が国の創薬力向上に向けての課題と対策、内閣官房ホームページ 創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議、2024年、https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/souyakuryoku/dai2/siryou3.pdf、2024年5月9日
- 9厚生労働省 医薬品開発協議会、治験に係る取組と今後の対応について、首相官邸ホームページ 、2023年、https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/iyakuhin/dai9/siryou3.pdf、2024年5月10日
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